Nstar's Laboratory - NATURE PHOTO -
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★" Star Watching   −アストロ・デッキ−

 

Astro deck


deck   deck

奥: 180mm望遠鏡、82mm対空双眼鏡、120mm直視双眼鏡
手前: 356mm望遠鏡

上の写真は我が家のアストロ・デッキ。 私が最も良く利用する観望場所だ。 庇もなく普段は無駄に広いだけの単なるベランダなのだが、こうして機材を一角に集めるとアストロ・デッキに早変わり。 それぞれの機材の詳細は個々のページで紹介した通りだが、それぞれの特徴を簡単にまとめると…
  • 120mm直視双眼鏡
    アストロ・デッキに常設してある最も使用頻度が高い機材。 星空散歩用。大型の星雲・星団・銀河、彗星、地球照、人工衛星などと対象は広い。 最も得意とする対象は天の川中心部。 大瞳径で天の川の構造を濃く見せてくれる。 遠征にも持っていけるようにしてあるが、今のところその実績はない。
  • 180mmドール・カーカム式望遠鏡
    アストロ・デッキに常設してあるピラーと架台に鏡筒を載せるだけで観望可能。 ほぼ月・惑星専用機。 これで月を見ると、月面へと落ちそうになる感覚が味わえる。 鏡筒も常設にしてしまおうか思案中。
  • 82mm対空双眼鏡
    小型万能機。 主に遠征用だが、月・惑星のチョイ見にも活躍。 120mm直視双眼鏡と比べるとパワーでは劣るが、星を美しく見せる力で勝る。 月明かりがある夜に、アストロ・デッキでゆったりと星空を流すひとときが意外と楽しい。
  • 356mmドブソニアン望遠鏡
    主に遠征用。遠征自体の頻度が低いので、使用頻度は高くない。 年に数回はアストロ・デッキでも活躍。 ディープスカイへの跳躍力は随一。


アストロ・デッキに機材が集合して思い出されるのは昔使っていた機材達。 あの機材は今どうしているのだろうか… はてさて、どういう経緯で今の機材構成になったのだったか…
※このページに記載されていることは、あくまでも私が使った一個体に対する私の主観に基づくものであることを、予めお断りしておきます。

シュミカセ・銀ミラー仕様

初めて手にした望遠鏡は10cmF10反射赤道儀。 その後、それを当時流行っていた10cmF6短焦点反射に改造したり、12.5cmシュミットカセグレンを購入したり。 やがて天体写真に夢中になりポタ赤と望遠レンズが主要機材で、眼視用望遠鏡は7.5cmSDアポ屈折のみ。 これらの機材については、もう昔過ぎてあまり良く覚えていないのだが、10cmF10反射で初めて見た土星の姿、 400mmF3.5望遠レンズに25mmアイピースを付け口径114mmの16倍で見た北アメリカ星雲やプレアデス星団を取り巻くガス星雲、 7.5cmアポ屈折で見たシューメーカー・レヴィ第9彗星が木星に作った衝突痕(1994年)などは脳裏に焼き付いている。

やがて天体写真にも飽きてきた頃、ちょっとした副業でまとまった収入があり、記念に残る物を買った方が良いと友人に促され20cmシュミットカセグレンを購入。 2000年だったろうか。 ファーストライトは近所の空き地で土星。 視野には、今まで見た事のないシャープで大きな土星が、ピタリとしてほとんど揺らぐことなく見えていた。これが口径の威力なのかと驚愕した。 しかしこれは、たまたまシーイングが最高で、たまたま鏡筒の温度順応も完璧に済んでいたという偶然の賜物で、その後は同じような惑星像を見ることができず四苦八苦することとなった。 ディープスカイに関しては、富士山まで持って行って見てみたもののパットしない印象だった。 低倍率用アイピースが付属のPL 26mmだけだったのが原因でもあるのだが、このときはそれに気づかず、ネイチャーフォトに夢中になりしばらく放置。

2004年頃の冬、今度はSW24.5mmアイピースを購入しての遠征。 初めての広角アイピースで見るM42の美しさに感動した。 この機材をすっかり見直し、機材のチューニングをすることに。 まずは、補正板を外し鏡筒内部に植毛紙を貼って迷光対策。 分解したついでに副鏡を洗浄しておこうと水道水で表面を洗い流すと、水道水を流したところだけメッキが膨れたような跡が! なんと、この副鏡は銀ミラーだったのだ。 どうりで反射率が異常に高かったわけだ…というのはもちろん嘘で、何かと比べた訳ではないので違いは良く分からず。 購入後数年経っていても反射率が低下した様子はなかったが、水道水でダメージを受けるということは保護コートは無かったということか? いずれにせよ、「絶対に水道水で洗浄しないこと!」と説明書に赤字で大きく書いておいて欲しかった。 副鏡の再メッキも考えたが、この機材は鏡筒と自動導入架台が簡単に分離できず、運搬に大変な苦労を強いられ辟易していたので、記念品にと購入したのではあるが、このまま引退することとなった。

初号機

眼視での楽しさに目覚め、大型双眼鏡なら淡い星雲でも良く見えるらしいと聞いた。 なるほど、単眼瞳径7mmの壁を打ち破る方法として双眼視があったか。 天文用には接眼部が折れ曲がった対空タイプが適しているが、しかし、有名なフローライト10cm対空双眼鏡は既に生産終了。 とても残念に思っていたところ、後継のED版を開発中との噂を耳にし、直ぐにメーカーに電話をして予約を入れた。 ED版の完成を待っている間、望遠鏡が何もなかったので18cmドール・カーカム式望遠鏡を購入した。 当時持っていたポタ赤に載る最も大きな口径という単純な理由で決めたのだが、これは今でも月・惑星専用機として活躍中だ。 8x30双眼鏡、8x32双眼鏡や12x32防振双眼鏡を購入したのもこの頃だ。

さて、待つこと約1年、ようやくEDアポ10cm対空双眼鏡が我が家に届けられた。2005年夏のことだ。 お話を伺ったところ、ED版の第1号機、初号機とのことだった(というより最終試作機?)。 さっそく遠征してファーストライト。 まずはベガ。EDアポにしては色収差が残っていて青ハロが出るなという印象。 次にM57。そこには米粒のように小さいけれど青緑色のリング状の天体が浮かんでいた。美しい! それからは大口径双眼鏡の威力に驚愕の連続だった。 しかも、片手でひょいとケースを持つだけで遠征に出かけられる抜群の機動力。 外観も格好良い。 もう完全にこの機材の虜になった。 20倍アイピースは2セット用意し、1セットはUHCフィルターを底に付けられるように改造したりもした。 しかし、初号機は僅かながら左側鏡筒にアスがあり、星が軸上でもピンポイントにならなかった。 調整に出したが直らなかったので、2005年秋にもう1台を追加購入した。 どうしても完全な個体が欲しかったのだ。 この機材でずっと星空を見ていくつもりだったから。 あの機材の噂を耳にするまでは。

対空双眼鏡対決

フローライトアポ82mm対空双眼鏡の光学性能が素晴らしいらしい。 しかし、私が持っているのはEDアポとは言え口径は100mmだ。星野に関する限り光量で口径82mmを圧倒する筈だ。 しかし、残存色収差が割と大きく高倍率性能に不満を持っていたのも確かだ。 この際、2台所有している100mm対空双眼鏡の1台を売却し、100mmと82mmの2台体制にし、100mmを低倍率用、82mmを高倍率用として使い分けたらどうだろうか? そう思うと居ても立っても居られなくなり、気づいたら82mm対空双眼鏡を購入していた。 2006年春のことだ。 1台目の大型双眼鏡を手にしてから1年も経っていないというのに、自宅に揃ってしまった3台の大型アポ対空双眼鏡を見て、「俺はいったい何をしているのだろう?」と自己嫌悪に陥ったものだ (もちろん100mmのうち1台は直ぐに売却したが)。 しかし、その晩のファーストライトで50倍の美しい木星の姿を見たとき、「買って良かった」とすっかり気を取り直してしまった。

82mmと100mmの対空双眼鏡は高倍率と低倍率で使い分けるつもりだったが、2台あると比べてみたくなる。 遠征に2台を持ち出し、まずはNGC4565エッジオン銀河。 約20倍で見比べてみると、やはり100mmの方が光量があって明らかに明るい。 しかし、20倍だと倍率が低すぎて、あまりパッとしない。 倍率を26倍、37倍と上げると、やや見え易くはなるものの、依然としてパッとしない。 ところが82mmの方で32倍にしてみると、弱々しいものの意外と良く見える。 100mmの方は倍率を上げても内容が乗ってこないのに対し、82mmの方はきちんと倍率効果が効いてきて見易くなる感じだ。 M82不規則銀河も、82mmなら抜群に良い空で倍率を上げればギザギザ構造まで見えてくる。むぅ… しかし、約20倍同士の比較なら100mmの方が明るいのは間違いないので、まぁそれぞれ一長一短なのだろう。

やがて82mm対空双眼鏡用に改造したPanoptic 24mmアイピースが出来上がってきた。 M51子持ち銀河に向けてみると… その19倍の視野内には100mmよりもコントラストが良くスッキリと見易いM51の姿があった。むぅぅ…

違和感

フローライトアポ82mmに対抗するには、100mmの光量を以ってしてもフローライトアポが必要ということなのか… 別に対抗する必要は全くないのだが、何だか釈然としない日々を過ごしているとき、ふと立ち寄った中古ショップにフローライト100mm90度対空双眼鏡が出ているのを見つけた。 「これを見つけてしまったら買うしかない」と訳の分からない事を言いながら、気づいたら購入していた。 2006年夏のことだ。 下取りでEDアポ100mm対空を売却したので、今度は大型アポ対空双眼鏡が3台揃わずに済んだ。 昼間の景色を見てみると、倍率を上げても色収差は良好に補正されており、ファーストライトへ向けて期待が高まった。 遠征に持ち出しファーストライトはM4球状星団。 見た瞬間に「あれっ?」と違和感。 EDアポ100mm45度対空を1年も見続けてきたので、100mmの明るさがどういうものなのかは身に染み付いている。 フローライト100mm90度対空は色収差もなくスッキリとした上品な見え味なのだが、100mmの光量だけのパンチ力がないのだ。 あぁそうか、まだ目の暗順応が完全に済んでいなかったんだな… しかし、どれだけ経っても違和感が消えることは無かった。

それから事あるごとに82mm対空と比較したが、約20倍で比較した星空の背景の明るさには殆ど差がなかった。 シュミットプリズムを使った45度対空と異なり、ペンタプリズムを使った90度対空はミラー反射面があるので暗くなるとは聞いていたが、こんなにも? 悶々としながらも、遠征には大概フローライトアポ100mmを持って行ったし、ホームズ彗星は大バースト (2007年10月) 直後から100mmでずっと追いかけた。 悶々としたまま1年以上経ったある日、入射瞳径の測り方を知ったとき全てに得心がいった。むぅぅぅ…

異端児

取り敢えず90度対空は売却。 ここまできたらフローライト100mmの45度対空を試してやろう、とは思ったものの、45度対空の方は中古市場になかなか出てこない。 そのころ、28x110の直視双眼鏡が海外で人気となっていた。 接眼部は通常の手持ちポロプリズム双眼鏡だが、口径11cmの巨大な対物レンズを備えたスタイリッシュな双眼鏡で、透過率の高さを謳い文句にしていた。 これまでのアポ対空双眼鏡に比べたら遥かに財布に優しいものなので、口径11cmの光量をちょっと試してみるつもりで購入した。 2007年暮れのことだ。 ファーストライトはM42オリオン大星雲。 明るい視野の中には薄くピンクに色付いた羽を広げた鳥の姿があった。 しばし絶句。錯覚かと思い、何度も見直しているうちに、今まで見覚えのある姿になった。 どうやら、分光特性がこれまでと異なる機材を使ったことで、脳が嬉しい誤作動(?)をしたようだ。

この双眼鏡はネジをきちんと締めてもタワミがあるし、お世辞にも作りが良いとは言えない代物だった。 普通の双眼鏡の周辺星像は羽を広げたカモメのようになるのだが、この双眼鏡の場合、カモメが羽を捩ってタコ踊りをしていた。 軸上でも輝星の周りにはスパイダー状の光芒が無数に出てイガ栗状だった。 とんでもない異端児だ。 それでいて、28倍という高倍率にも拘わらず色収差は比較的良く補正されていたし、高透過率を謳うだけあって光量もあり、暗い天体の検出能力は高かった。 例えば、M81とM82の銀河ペアを見た途端に、「お、こんなところにも銀河が」という感じでNGC3077の存在に気付く。 もちろん、82mm対空双眼鏡でも見えるのだが、110mmの方は意識しなくても向こうから目に飛び込んでくる感じだった。 だから、おとめ座銀河団付近の星野を流すと、まさに銀河がウジャウジャと見えた。

そんなこんなで結構気に入ってしまい、110mmの異端児と82mm対空双眼鏡という性格が正反対の2台体制をしばらく続けることにした。 直視双眼鏡ではあったが、椅子に座り後ろに仰け反った格好で三脚の下に潜り込むと、天頂を見ることもできた。 首の上に巨大な双眼鏡がそそり立つ様は、外からは、さぞかし異様な光景に見えただろう。 天頂に昇ったNGC6960(網状星雲の暗い方のループ)を見たときには首を痛めたりもしたが…

対空双眼鏡熱も大分冷め、16x70直視双眼鏡を購入したりもした。こちらは異端児ではなく正統派だ。 中国皆既日食 (2009年7月) には、そのコンパクトさを活かして中国へ持って行った。 16倍という倍率は、皆既中の太陽の光景を余すところなく見せてくれた。

初号機ふたたび

異端児と82mm対空双眼鏡の両極端な2台体制を続けている間に、大都市圏近郊から地方都市へと引っ越した。 やがて2台体制が3年目になろうかという頃、海外で15cm90度対空双眼鏡が発売となり注目されていた。 日本で取り扱いそうな販売店に話を伺ってみると、「現在海外で販売中のものには問題があるが改良され次第販売する」とのことなので、その際には連絡をお願いしておいた。 しかし、まだ購入するかどうか迷っていた。 まず重量が23kgと重い。 それに90度対空では苦い経験もある。 海外の掲示板には試作機らしきものを使っている人のレビューがあったが、それによると初め口径が蹴られていて、その後改良されたらしい。 問題とはこのことか?改良され蹴られがないなら90度対空でも大丈夫か? やがて販売店から連絡があり、まぁ大丈夫だろうと思って購入を決めた。国内販売の初号機、2010年暮れのことだ。

まずは入射瞳径のチェック。蹴られは殆ど無く安心した。 ファーストライトは自宅でシリウス。 15cmセミアポにしては色収差が大変に良く補正されていた。 しかしちょっと違和感。口径15cmのシリウスのギラつき感はこんなものか? 次いでM42オリオン大星雲。広々とした視野には、今度はピンクではないものの美しい姿があった。 星雲のガスの構造も良く分かった。 M42の下側で羽が丸く繋がった部分の外側は、左側だけ薄いガスが存在するので、右側の方が僅かに暗いのだが、それも良く分かった。

購入後しばらくしてアストロ・デッキが完成し、この機材は常設することにした。 重くて持ち運ぶ気にならないからだ。 私のリファレンス機になっている82mm対空双眼鏡とは、しばしば比較をした。 150mm 27倍の瞳径は5.6mm、82mm 19倍の瞳径は4.3mmだから、などと計算をしながら。 フムフムなるほど、むぅぅぅぅ… 違和感を覚えながらも、この機材には大変にお世話になった。 2インチアイピースが使えるので、常用倍率の27倍で80度超の見掛視界があるのも良かったし、90度対空はやはり覗きやすかった。 そして、ちょうど忙しい頃だったので、常設されていることが何よりもありがたかった。 書斎から一歩外に出れば、そこはアストロ・デッキ。星空への架け橋…

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改造パラレログラム架台と各種双眼鏡
(奥から 2.3x40, 8x30, 10x50, 16x56, 10x50)


彷徨う

まだアストロ・デッキが完成する前、地方都市に引っ越して来てまずしたことは観望地探しだった。 ここは大都市圏とは異なり、数十キロ移動するだけでかなり暗い夜空がある。 観望地探しなんて楽勝だろうと高を括っていた。 しかし甘かった。 まず、標高 1,000m を超えるような高い山がないので、峠の展望台 (の駐車場) のような場所がない。 中途半端な山ばかりで、山の頂上に至る道は無かったり、あっても車を止めて機材を広げられるような開けた場所が作られていない。 農場、公園、牧場など平野部にある開けた場所は、夜間は駐車場を含め完全に閉鎖されてしまう。 この辺りに定番の観望スポットがない理由が良く分かった。 贅沢は言わないから何かないのか… Google マップを見て当たりをつけては、週末の夜に車で彷徨う日が続いた。 『暗い空があれば適当な空き地でも良いさ』と思って観望していたら、ドスドスという足音とともに獣の息づかいが聞こえてきて、子連れのイノシシが僅か数メートル脇を通り抜けて行った。 別のちょっとした空き地には檻が置いてあった。 クマ捕獲用の罠だ。 むぅ…

大都市圏というのは、遠征観望に限れば、実は意外と恵まれていたことを思い知らされた。 半径100km圏内に定番と言われる有名な観望スポットが幾つもある。 中には適度に観光地化されていて、トイレ完備で快適かつ安全に観望できるところもある。 高速道路網も発達しているので、長距離でも割と短時間で移動できる。

折角地方に引っ越してきたというのに、いったいどうすれば良いのか? しかし、しばらくして自宅でも深夜になると意外と星が見えることに遅ればせながら気が付いた (星見が目的で引っ越した訳ではないので)。 網状星雲や螺旋星雲はネビュラフィルターを付けなくても見える。 こういった星雲は遠征して見るものだと思っていた自分には、ちょっと衝撃的だった。 となると、遠征するメリット (もう少しばかりの暗い空) と、その手間や良くない観望環境とが天秤に掛けられ、その結果、普段は自宅での観望がメインとなり、アストロ・デッキを作って15cm対空双眼鏡を常設することとなった。 遠征するのは多くても年に数回だろうか? かくして、星見スタイルは大きく変わってしまった。 一つだけ困ったのは、このウェブサイトのコンセプトである『星見に行こう』とかけ離れてしまったことだ。

専用機

自宅での観望がメインだとして、遠征に持って行く機材は何が良いだろうか? 偶に行くだけの遠征なら、少しぐらい大き目な機材でも面倒ということはあるまい。 それに、どうせなら今までとは毛色の違う機材の方が面白いだろう。 ただし、長く双眼視を続けて来ていて双眼視はもう外せない。 また、今までは (アイピース等の小物を除き) 元に戻せる可逆改造しかして来なかったが、次は自作とまでは行かなくても、不可逆的に好き勝手に手を入れられる機材にしよう… かくして新機材は決まった。 販売店を通してお願いをし待つこと5ヵ月、2014年の夏になり待望の望遠鏡が自宅に届けられた。 光路短縮、斜鏡大型化とスパイダー形状を特注した口径35cmのトラス式ドブソニアン、双眼装置の専用機だ。 構造がシンプルなので、他にも色々と改造して楽しめそうだ。

ファーストライトは双眼装置の85倍でM57。 視野の中には薄緑色に怪しく輝くリング状の星雲が浮かんでいた。 この惑星状星雲、同じ双眼装置の約80倍でも口径18cmでは白にしか見えない。 どうやら瞳径が双眼鏡換算で2.5〜3mmを超えたあたりから (私の目には) 緑に色付いて見えてくるようだ (細かい機材の差異に依らず整合性がある)。 EDアポ10cm対空双眼鏡のファーストライトで初めて青緑色に見えたときから、色を楽しんでいる天体の一つだ。 あのときは20倍で米粒のようだったが、この機材なら85倍もの大きさで薄緑色のリングを見せてくれる。 もともと、観望に目覚めた契機が対空双眼鏡で星空を流したことだったこともあり、これまでは対空双眼鏡に嵌っていたが、この歴然としたパワーの差を目の当たりにすると、双眼装置仕様ドブソニアンにも嵌りそうだ。

この機材は主に近場の山頂で使っていた (特に空が暗いという訳でもなかったが自宅よりは若干良かった)。 しかし、昨今の豪雨で山頂に至る林道が大きく崩落してしまった。 主要道路ではないので、いつ復旧するか、いやそもそも復旧するのかすら分からない。 むぅぅ… ならば、アストロ・デッキでもっと活躍させるしかない。 最近は稼働率を上げる為に、書斎の台車の上に組み立てたままで保管している。

異次元の世界

まだ二十歳にも満たなかった頃、北の方にある某市の天文同好会に所属していた。 ただその頃は、『自分の機材で』天体写真を撮ることに夢中で、公共天文台の機材には全く見向きもしなかった。 ところがある日、台長さんがM13を天文台の機材で見せてくれた。 球状星団の星々が中心部まで見事に分解し、これでもかと言うぐらいの星々で視野が満たされ、凄まじい光景だった。 町中なのにここまで見えるのかと驚嘆した。 しかし、である。 昔のことなので、天文台の機材と言っても口径は41cm。 今の双眼装置仕様ドブソニアンの35cmと、そう大きな違いがある訳ではない。 しかも、この自宅の方が天文台のあった町中より遥かに空が暗い。 あの感動をもう一度と思っているのだが… まぁ、脳裏に焼き付いているあのイメージは、毎晩のように見ていたであろう台長さんが、「今晩は良く見える」と言って見せてくれたベストイメージだ。 シーイング等の様々な好条件が重なる必要があり (あのイメージは可成りな高倍率だ)、そう簡単には再現できないのかも知れない。 あるいは記憶が美化されているのか…

一方、あのイメージとは全く正反対だが、好きな球状星団のイメージがある。 ドブソニアンと比べたら遥かに小口径の双眼鏡の過剰倍率で見る球状星団だ。 82mm対空双眼鏡の94倍でM13に向けてみると… 目が十分に暗順応してくるにつれ、微かな光の点の集まりが見え始めるが、それは本当に微かな光で、思わず息をひそめてしまう。 そうでもしないと息で吹き飛んでしまいそうだからだ。 あまりにも儚くて、それはアイピースの中にだけ存在する微小世界か、あるいはアイピースを通してだけ垣間見れる虚構の世界としか思えない。 まるで霊界か異次元の世界を覗き見ているかのようだ。 何か見てはいけないものを見てしまったかのような、後ろめたい感じすらする。 しかし、実は遥か遠くの壮大な現実世界。 この無数もの微かな星々の星系のどこかには生命体が住んでいるのかもしれない… 高倍率性能の優れた双眼鏡 (認識力が高く臨場感のある双眼視が良い) とアストロ・デッキで簡単に体験できる秘かな楽しみ。

ロングセラー

15cm対空双眼鏡はアストロ・デッキ常設とは言え、台風が直撃しそうな時などは家の中に取り込んでいた。 しかし、それすら億劫になる重さだった。 今ならまだ良いが、歳を取れば困ったことになるだろう。 それに、見るたびに光量に違和感を覚えてしまうのだが、使用頻度が高いだけに精神衛生上も宜しくない (割り切ってしまえば良いのだろうが)。 そこでこの際、常設機材を変更することにした。 しかし、常設というのは、立派な望遠鏡カバーを掛けていても機材にとって大変に厳しい環境だ。 極寒の冬の朝、対物レンズのキャップを外して見てみると結露していることがある。 前夜は使っていないのにも拘わらずだ。 猛暑の夏にはもの凄い高温にもなる。 このような過酷な環境にも耐えられそうな機材となると、船舶にも搭載される大型双眼鏡ぐらいしか思い浮かばない。 既に持っている82mm対空双眼鏡もこの範疇に入るのだが、どうせ常設するのなら、もう少し口径が欲しい。 ただ、口径35cmの双眼装置仕様ドブソニアンを既に導入したので、あまり大口径には拘らないことにした。 重さを持て余しての機材変更でもあるのだから尚更だ。 かくして機材は決まった。 口径12cmの直視双眼鏡、もう30年以上も販売され続けているロングセラーだ。 まぁしかし、頑丈な大型双眼鏡が、口径8cmでも12cmでも15cmでも国産新品で選べてしまうというのは、改めて考えてみると凄いことだ。

2015年の夏、双眼鏡本体が到着したがピラー脚はまだだったので、丸椅子の上に架台を載せてファーストライト。 まずはM6とM7の散開星団。 まだ暮れ残っている明るい背景の中で、星々の明滅が美しい。 このスカッとした感じは、さすが大瞳径。違和感はない。 次にh-χ二重星団を82mm対空双眼鏡の21倍と見比べる。 どちらもほぼ同じ倍率と見掛視界。 シャープネスは82mm対空双眼鏡が圧倒しているが、迫力は12cm直視双眼鏡が圧倒する。 光量に全く違和感なし。 この12cm双眼鏡の対物レンズは昔ながらのモノコートなので (アイピースはマルチコート)、透過率を最新機種と比べたら数パーセント、あるいは十パーセントほど落ちるだろう。 しかし、ここで書いてきた違和感とは、その程度の小さな差異のことではない。 逆に、この双眼鏡のプリズム周りを見てみると、内面反射は非常に良く抑えられていて、偽瞳 (false exit pupil, 誤認やコントラスト低下の要因となる) は全く見られない。 真面目に作られている双眼鏡だ。

常設機材のメリットは、とにかく直ぐに見れること。 真夜中にふと目が覚めたとき、寝ぼけながらでも見る気になれること。 そして、目が完全に覚めてしまう前に、また横になって眠れること。

モンスター

色々と紆余曲折を経たが、星見用機材も大分落ち着いてきた。 あとは、もし余裕が有れば、いわゆる欧州メーカー御三家の趣味性の高い (?) 双眼鏡にでも手を出してみようかなどと考えていた矢先、モンスター双眼鏡が国内メーカーから発売された。 10x50という、よくある口径と倍率の双眼鏡だが、見掛視界が90度もあるという超広視界双眼鏡だ。 光学性能は決して妥協しない開発方針とあるので、超広視界の隅々まで美しい星像なのだろう。 各社フラッグシップクラスのハイエンド双眼鏡ともなると、光学性能を比較しても僅かな差しかないのが普通だ。 ところが、視野端までシャープな90度の超広視界というのは、明確な性能差だ。 このクラスでこれだけ明確な光学性能の差を見せつけるとは、まさにモンスター。 いやいやいやいや、とは言え幾ら何でも趣味性が高すぎる、というのが発売時に価格を見たときの正直な感想。 しかし、次第に考えが変わってきた。

倍率固定や専用アイピースの双眼鏡と、双眼装置用の望遠鏡で構成した私の機材では、見掛視界100度とかの超広角アイピースの利用は端から諦めている。 もっとも、超広角は瞳径5mmとかの大瞳径の双眼視でこそ意義があると個人的に思っているので後悔はしていない。 瞳径が小さいと背景は暗く視野境界がはっきりしないので、超広角でなくとも窮屈感は少ないし、超広視界の単眼視より狭視界でも双眼視の方が好きだからだ。 瞳径5mmの双眼視を超広角アイピースで達成しようと思ったら、双眼で使える最長焦点距離の17mmでもF3.4の対物レンズが必要で、市販の望遠鏡での実現は困難だ。 ところが、瞳径5mmで超広角を実現した双眼鏡がそこにある。 これで諦めていた大瞳径での超広角双眼視が楽しめるようになる訳で、私にとっては正に格好の機材と言えるのではないか。 しかし、10倍という倍率は低すぎるのではないかという懸念も湧く。 16倍ぐらいの倍率があれば、楽しめる天体も増えるので一晩中でも飽きないだろうに… いやいや、むしろ10倍の方が、今ある82mm対空双眼鏡や120mm直視双眼鏡と倍率レンジが異なりバッティングしないので良いかも知れない。 かくして導入を決めた。 2018年秋のことだ。

ファーストライトはアンドロメダ座からペルセウス座・カシオペア座にかけての星野。 コントラストが大変に良いせいか、M31アンドロメダ大銀河は口径50mmにしては大きく広がって見えるなという印象。 M31は天頂方向 (高度80度超) まで昇ってきているが、改造パラレログラム架台のお蔭で苦なく観望できる。 そのまま雲台をゆっくりとティルト・ダウンしながらカシオペア座の方へと宇宙遊泳を楽しむ。 h-χ二重星団や巨大なStock2散開星団などが展開する天の川の領域に突入すると、超広角の視野が無数の星々で埋め尽くされる。 まさしく超広角の視野端までシャープな星像。 宇宙への没入感。見事という他に言葉が見つからない。 見口を最も縮めた状態にすると、僅かな隙間から本来の星空も何となく感じ取れるが、この時は自身が星空と一体になった感覚になれる。 直視双眼鏡ならではの楽しみ方だ (もっとも普段は迷光防止に見口を一段だけ伸ばした状態で使っているが)。

50mm超広視界双眼鏡に82mm対空双眼鏡、そして120mm直視双眼鏡。 この3台の双眼鏡は今後も手放すことはないだろうという気がしている。

趣味の世界

星見にいったい何を求めるのだろうか? 人によって求めるものは異なるだろう。 刺激を求める人もいれば、癒しを求める人もいる。 私の場合、このサイトの "epilogue" に、『良いストレス解消になること間違いない』と書いたように、どちらかと言うと癒しを求めていると思う。

初めて対空双眼鏡で星空を流したとき、『私が求めていたのはこれだ!』と思った。 大型双眼鏡で見る星空はとにかく美しかったし、その星見は最高に楽しかった。 これなら星見を趣味にしていない人でも、傍らの趣味として楽しめるのではないかと思った。 この楽しさを広め、少しでも星見人口が増えてくれたら、光学メーカーの機材開発が進み、巡り巡って自分自身にも間接的にメリットがあるかもね、なんて有り得ないことを考えながら軽い気持ちでこのサイトを始めた。 当初は、対空双眼鏡をメインに、ちょっとした小型双眼鏡 (とあるいは月惑星専用機) だけの機材構成にし、その楽しみを綴って行くつもりだった。 やはり、口径7cm〜10cm程度の双眼鏡 (対空でも直視でも) 1台だけを車に載せ、星見 (とネイチャーフォトや温泉) を楽しみながら野山を駆け巡るのが私の性に最も合っている気がする。 今でも人に尋ねられたら、まずはこのスタイルの星見を私は勧めるだろう。

しかし気が付けば、当初の予定から外れて星見環境は変わり、意外と機材も増えてしまった。 あの頃の自分が今の機材群を見たら、「癒しにいったい幾ら掛けるつもりなんだ?」と呟くだろう。 それでも無意識のうちにブレーキになっていたのか、私の機材には『一つ小さめ』という共通点ができた。 対空双眼鏡は口径10cmではなく8cm、常設双眼鏡は15cmではなく12cm、惑星専用機は21cmではなく18cm、ドブソニアンは40cmではなく35cmといった具合だ。 これまで書いてきたように、はじめから『一つ小さめ』だった訳でもなく、わざわざ買い替えたものもある。 これはおそらく普通の選び方の逆を行っている。 望遠鏡の物理的性能が口径で頭打ちされる以上、『どうせ買うなら、できるだけ大きいもの』というのが望遠鏡の普通の選び方だからだ。 でも結果的にこれで良かったと思っている。 いまの機材が全て一回り大きいだなんて、想像するとぞっとする。 稼働率の低下は必至だし、歳を取って困ったことになるのもご免だ。

まぁ、個人の趣味の世界なのだから、自分が楽しいと思うことをしてきただけだし、今後もそうするだけのことだ。 以前、口径4cmの太陽望遠鏡を購入し、太陽のプロミネンスを見たときのことだ。 子供の頃からずっとプロミネンスは見たいと思っていたので、それはそれで凄く感動したのだが、その時に感じたのは、『これは私の趣味ではないかもしれない』だった。 Hαフィルターには寿命があるということもあり、太陽望遠鏡は速攻で売却してしまった。 サイトの "retired" に載せる写真を撮るのも忘れてしまう有様だ。 また、私の星見機材は双眼鏡を中心にした構成になっているが、双眼鏡が趣味という訳でもない。 旅行や出張に双眼鏡を持って行っても、使わずに持って帰ってしまうことが多い。 私にとっての双眼鏡は、あくまでも星見用の道具ということのようだ (今後は分からないが)。

星見に癒しを求めていると、季節が巡ってくる度に同じ機材で同じ星野を見ていても、見飽きることがない。 嗜好品のようなもので、これからも飽きることはないのだろう。


完 (たぶん)


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by Satoshi ISHIZAKA