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★" Star Watching   −82mm対空双眼鏡−

 

Kowa HIGH LANDER PROMINAR


Highlander   Highlander

コーワ ハイランダー プロミナー, 2000年発売 (made in Japan)
口径:82mm, 焦点距離 450mm (F5.5), 45度対空式, 重量:6.2kg
アイピース交換可: 21倍 (実視界3.0度), 32倍 (実視界2.2度), 50倍 (実視界1.3度),
メーカーのウェブサイト: KOWA PROMINAR OFFICIAL WEB SITE

双眼鏡での星見にすっかり魅了されると、もう少し大型の双眼鏡が欲しくなった。 大型双眼鏡を手に入れ星空に向けてみると…その世界は想像を超えていた。 アンドロメダ大銀河やオリオン大星雲など、視野一杯に広がる様な大型の星雲・星団は迫力ある美しさで迫ってくる。 小粒の系外銀河や惑星状星雲なども、星々の中にぽっかり浮いている様は神秘的で、宇宙の奥行きを感じさせてくれる。 昴 (プレアデス星団) のメローペ星を取り巻く反射星雲 (IC349)、燃える木星雲 (NGC2024)、網状星雲 (NGC6992-5)、北アメリカ星雲 (NGC7000)、らせん星雲 (NGC7293)…などなど、非常に淡く写真でしか捉えられないと思っていた天体も、いとも簡単に見せてくれる。 写真の様な派手さはないけど、その淡く透き通ったベールが広がった姿は、星々の煌きと重なり、言葉では表現できない美しい光景だ。 天の川を流せば、無数の星々とともに大小様々な星雲・星団が次々と視野を通り過ぎて行く。 しばしば流れ星や人工衛星までもが視野の中を通り過ぎて行く。 こうして、すっかり大型双眼鏡の虜になってしまった。

双眼鏡の中でも、接眼部が折れ曲がった対空式の双眼鏡は星空観望に最適だ。 天頂方向まで楽な姿勢のまま観望でき、何時間でも星空を楽しむことができるからだ。 何機種かの対空双眼鏡を使い、紆余曲折を経て、口径10cm以下クラスの対空双眼鏡は HIGH LANDER PROMINAR に落ち着いた。

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この対空双眼鏡の作りは堅牢そのものだ。 アイピースを外すには結構な力を掛けなければならないのだが、「その程度ではびくともしない作りなのです」と言われているかの様だ。 それでいて軽量化も良く考えられているのか、片手で楽々持ち上げられる。 しかし、そういったことは、この際どうでも良い。 注目すべきは光学性能。 大型双眼鏡の中では他に類を見ない抜群の光学性能を誇るのだ。 「所詮はプリズム双眼鏡」と思って星空を見ると、良い意味で完全に裏切られてしまう。 それは星像の良さだけではない。 口径は8cmで、天文用の大型対空双眼鏡の中では大きい方ではないのだが、優秀な光学性能のなせる技なのか、はたまた透過率の高さとコントラストの良さがなせる技なのか、1ランク大きな口径の双眼鏡にも匹敵する星雲・星団の姿を見せてくれる。

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またアイピース交換式で倍率を変えられるのも嬉しい。 右写真は専用アイピース群で、21倍 (写真左)、32倍 (写真奥)、50倍 (写真右) が用意されている。 50倍で木星を見ると、美しいクリーム色のボディー、2本の縞模様とその間の大き目のフェストーン、そして南側には更にもう一本の細い縞模様が見える。 大口径の天体望遠鏡で見る木星とは違った趣で、迫力はないけれど、惚れ惚れとする眺めだ。 こと座のε星も (完全に分離まではしないものの) 二重の二重星 (ダブル・ダブル・スター) なのが分かるし、ヘラクレス座の球状星団 (M13) は周辺は星々に分離し、星の集団である事が分かる。 高性能な天体望遠鏡で見るのと同じ姿を双眼で観望できるのだ。

この双眼鏡を星空観望に使う場合、標準の32倍アイピースが最適だとの意見を聞く。 実際、70度の見掛視界の周辺まで良好な星像で、これで見る広々とした星野は実に気持ちが良い。 瞳径は2.6mmと小さいのだが、コントラストが高くヌケが良いので、星雲のディテールも良く分かる。 しかし、もう一つの理由は21倍アイピースにあると思う。 21倍は視野周辺部の星像が円周方向に流れてしまうので、天の川など星が密集している星野の美観が若干損なわれるのだ。 流れると言っても、昼間の景色では全く気にならない程度なので優秀なアイピースだと思うが、32倍アイピースの性能が特に素晴らしいだけに気になってしまう。

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しかし、幸いスリーブ径が31.7mmなので、天体望遠鏡用のアイピースが使える。 ただし、そのままではピントが合わないので、 遊馬製作所 さんにお願いして、 TeleVue Panoptic 24mm アイピースの短縮加工 (バレル上部の当たり面の切削とバレル下部の切断) をして頂いた (右上写真)。 そのままだと対物レンズのイメージサークルの方がアイピースの視野絞環より少し小さくなるので、31.7mmフィルターの抑えリングを利用し視野絞環をΦ24.2mmにした。 スペックは、倍率 19倍、瞳径 4.4mm、実視界は3.1度となる。 見掛視界は計算上は59度となるが、歪曲収差の為か63〜65度はあるようで広々としている。 このアイピースを使うと、視野の最周辺部まで星像がきっちり点像だ。 歪曲は大きいものの、星野を鑑賞する際には問題にならない。 ただ、フォーカスに余裕が無いので、近視の度が強い方はピントが出ないかも知れない。 特に冬場などは、焦点位置の温度変化の為、フォーカスに余裕が全くなくなる。

また、 TeleVue Nagler 4.8mm アイピースや、 MEADE 4000シリーズ UW 4.7mm アイピースも加工すればピントが出るという情報を見つけた。 早速、 遊馬製作所 さんにお願いして、Nagler 4.8mm の短縮加工(バレル下部の切断)をして頂いた(右下写真)。 スペックは、倍率 94倍、瞳径 0.9mm、実視界 0.87度、見掛視界 82度となる(こちらはフォーカスにも余裕がある)。 このアイピースで土星を見ると、50倍では確認できないカッシーニの間隙(土星の輪の中にある細い隙間)も見る事ができる。 約100倍の倍率でもシャープネスが維持されており、色収差補正も十分で(土星で見る限り色収差は全く出ない)、この双眼鏡の光学性能は本当に驚異的だ。 これで、19倍、21倍、32倍、50倍、94倍の倍率が出せる様になり、まさしく『双眼望遠鏡』になった。

ところで、ハイランダーのアイピースは、バレル先端の独特の構造がスリーブ内部の構造と噛み合って固定される仕組みになっている。 よって、噛み合う構造を持たない望遠鏡用の31.7mmアイピースを流用した場合、バレル・スリーブ間の僅かな摩擦以外にアイピースを固定する機構が無く、双眼鏡を天頂に向けたときにアイピースが自重で滑り落ちて来てしまうことがある。 そこで、改造31.7mmアイピースのバレルの落下防止溝には、ポリウレタン製0.3mm厚の黒いバンドを嵌めて摩擦を増やし、滑り落ち防止にしている。

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天体の導入には等倍ファインダーのスカイサーファーIIIを使っている (右上写真)。 単4の電池を電源として使えるように改造してある。 等倍ファインダーとは、ドット・サイトとも呼ばれる照準器で、素通しのガラス (実際はメニスカス) に赤色LEDのスポットが反射して浮かび上がるものだ。 ファインダーに付属していたプラスチック製の取り付け部品をマジックバンドにネジで固定し、マジックバンドを介して双眼鏡に装着している。 マジックバンドの裏にはネジで本体に傷が付かない様に、ネジの上からフェルトを張っている。 このファインダーは小型軽量で機材に装着したままでもケースに収納できるので、何かと重宝している。

もともとは純正三脚と純正マウントを使っていたのだが、これらは大きく重すぎて遠征の際に不便なので、 三脚は GITZO の G1340 MK2 + ギア式センターポール G338 にしている。 雲台は初め Manfrotto の 503 だったが、その後 503HDV を経て、現在はナイトロテック N8 にしている (右写真)。 雲台の仰角可動範囲は-90度〜+60度だが、パン棒を右上写真の様に逆向きに取り付けると-60度〜+90度になり、天頂方向へ向けられるようになる。 N8のカウンターバランスは8kgまで連続無段階で調整できるので、完全にバランスさせられる。 完全にバランスした状態でドラッグをOFFにすると人差し指1本でも動かせ、なかなか快適だ。 椅子に腰掛けながらパン棒で双眼鏡を自由自在に操っていると、まるで宇宙遊泳をしているかの様だ。 雲台への機材の装着はクイックシュー方式なので、簡単に機材を載せ変えることができるのも良い。 N12にしようか迷ったが、小型双眼鏡で使うことも考え、カウンターバランス0kgにできるN8にした。 また、ビデオ雲台は比較的コンパクトで三脚に装着した状態で車に載せたままにしておけるので、利便性はかなり高いと思う。

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ケースは Pelican の1550で、双眼鏡本体と純正アイピース一式が綺麗に納まる (右写真)。 このケースは純正のケースに比べて重いのが難点だが、機密性が高く非常に堅牢で、双眼鏡の型にくり貫いたウレタンにより耐衝撃性も完璧なので、遠征の際も安心だ。

この双眼鏡で見る星野は本当に素晴らしい。 優秀な対物レンズの性能のおかげで星像が引き締まっていて、星々の輝きはとても鋭い。 そのせいなのか、視野全体がとても透き通っている感じがする。 透明感溢れる星野は、特別な星雲や星団が無くてもそれだけで美しく、双眼鏡を星空のどこへ向けても、素晴らしい光景が視野内に広がるのだ。

片手で軽々と持ち上げられるコンパクトさでありながら、高性能天体望遠鏡に匹敵する光学性能を持ち、星野はもちろん、月面や惑星までをもカバーする。 しかも、両目を使って見るので、片目で見るよりも近くに星空を感じ取る事ができ、素晴らしい光学性能と相まって、口径から予想されるよりも遥かに高い満足感が得られる。 さらに対空式なので観望も快適。 この対空双眼鏡は、星空観望道具の一つの理想形を実現していると思う。

これからも長きに渡って、様々な光景を楽しませてくれそうだ。


追記 (2018/08)

Highlander
フィルター枠の構造を工夫しガラス面の平坦性に拘った保護フィルターが、一昨年 ZX (ゼクロス) の名で Kenko から、昨年には ARCREST の名で Nikon から発売された。 最近になって95mmのZXフィルターの価格が急激に下がったので、ハイランダー用に購入した。

私の場合、望遠鏡はもちろんカメラレンズも「保護フィルターは付けない派」だ。 だから、ハイランダーも当初は保護フィルターを付けていなかったのだが、ある時、性能に殆ど影響がないと教えて貰った。 実際にMCプロテクターを付け94倍の土星で試してみたところ、「言われてみればカッシーニの間隙の解像が気持ち違うか?」という程度の差しかなかった。 それ以来、メンテナンス性のメリットを考え、ハイランダーにはずっと保護フィルターを付けてきた。

あれからもう10年以上になるだろうか。 技術の進歩は素晴らしく、超低反射コーティングと撥水・撥油コーティングが採用され、更にここにきて平坦性の向上だ。 そろそろ更新しても良いだろうということで、今回購入に至った。 ZXフィルターの有無で解像力がどれだけ違うのかは、もう面倒なので調べるつもりもないが、MCプロテクターより性能が向上しているのだから、94倍では差は分からないレベルだろう。


http://www2e.biglobe.ne.jp/~isizaka/nstar/
by Satoshi ISHIZAKA