Have a good day(良い日を!!)
アメリカで暮らしてかれこれ1年半になろうとしている。長くても3年ぐらいの滞在と考えていたので、こちらでの生活物資には金をかけていない。
例えば、家具。日本に持ち帰ることを考えるなら、日本の家の大きさを考慮して家具の寸法を見積もってから、モノを探さねばならない。しかも、船賃をかけて持ち帰るにふさわしいモノでなくてはならない。持ち帰らずに、帰国時に売り飛ばすつもりなら、2,3年の生活のためだけに高級家具を買うのはもったいない。
例えば、衣服。こちらでも、仕事中は白衣なので、白衣の下は、Yシャツに普通のスラックス、デッキシューズでもあれば、貧乏な東洋人研究者としては文句なない服装だ。こちらでは日本以上に、人は外見で判断されますが、仕事以外も、仮の暮らしと思えば、一張羅のスーツさえあれば、普段着は安価で結構。良い身なりが必要なのは、医者(アメリカの医師免許は持っていないが、、)として遇されたい時、周囲からそれ相応の敬意を表されたい時(必要以上に粗略に扱われたくないとき)、ドレスアップを要求される時、と割り切り、それ以外は普通の(安っぽい)格好をしている。こちらでは、貧乏そうな格好(現地に馴染んでいるという条件で)をしていれば、大金を持ち歩いていないと、判断されるので、安全上は有利。周囲のrespectを犠牲にする価値はあります。要するに、こざっぱりした格好をしていれば、安価な服装で十分なのです。
前振りが長くなりましたが、
そんな私は、ある日、ウォールマートという激安スーパーに行きました。
メガネの蝶番のネジが外れて無くなったので、
スーパー内のメガネ売り場で修理を受けようということでした。
メガネ売り場には、客数人と3人の店員がいた。
店員の一人は接客中、もう一人は機械の操作中、
あとの一人は通路に向かって立って、特売品を手に、話しを聞いてくれそうな客を物色していた。
私の相手をしてくれそうな店員は、この『小太りの特売君』だけのようだった。
なんといって切り出そうか、まず、この特売君を振り向かせて、、、などと考えつつ、、
一歩彼に近づいた(白人男性はおおむね日本人より背が高い、圧倒されないように注意が必要!!)。
と、雰囲気を感じて、こっちを向いた彼と目が合ってしまった。
(以下、本当は英語の会話)
特売君:(どんなごようで?)
私:(あの、、メガネが壊れたので直して欲しいのです。)
ポケットから、壊れたメガネを取りだし、自信なげに要件を切り出す。
私:(蝶番のネジが抜けてしまったのです)
彼の目には、困っている、『貧乏な東洋人』と映っていることだろう。。。
特売君:(わかりました、こちらへどうぞ)
売り場の中に通された。
修理カウンターの前で作業をのぞき込んでいたら、椅子をすすめてくれた。
特売君は、礼儀をわきまえた兄ちゃんだった。
作業は素早くそして荒っぽかった。
その一方で、特売君は自信と確信に満ちあふれていた。
ネジは、径は共通らしかったが、長さがまちまちなのだろう。
長目のネジを差し込んで、回し終えたあと、
余ったネジ足をペンチでブチッと切るという寸法だ。
ネジの切り口がささくれ立っていたが、気にする様子はない。
レンズに洗剤をふきつけ、拭く余裕をみせ、一丁上がり。
なんちゅー荒っぽい仕事じゃ。
拭いてくれたレンズを斜めに見ると、洗浄液がまだらに膜になっている。。。きたない。。。
これでいくらとられるのだろう。
しかし、メガネを買い直す手間を考えれば多少のことに文句は言えない。
ちょっと、ひるんで、おずおずとたずねる私。
貧乏な東洋人の私:(それで、いくらになりますか?)
特売君は一仕事終えたスーパーマンのような涼しい目で私に言った。
特売君:(ただでいいよ。)
仕事内容を考えれば、ただ同然なのだが、太っ腹ではないか、特売君。
私:(おー、さんきゅー)
ウォールマートに出現した、にわかスーパーマン。
困っていた東洋人を助けた後の余裕の表情が決まっていた。
特売君:Have a good day!(良い一日を!!)
私は彼の演技?に呑まれてしまい、貧乏な東洋人役になりきってしまった。
貧乏な東洋人:(ありがとう、本当にありがとう)
感動した声で礼を述べた。
ペンチでブチッと切ったネジは、径が変形しているので、きっと二度と抜けないのだろうな。
なくしたネジが見つかったらどうしよう。。。
抜けないのが、良いことなのか悪いことなのか、にわかに判断できなかったが、
メガネの蝶番を直して欲しいという私の要求は、見事にかなえられていた。。。
私は、スーパーマンに助けられた、ラッキーな東洋人として、
感動の二文字を背中に背負って、
その激安スーパーをあとにしたのでした。
(2003/02/22記す) |