TVでは、おバカキャラが全盛である。私なりの解釈では、おバカキャラとは、知識の圧倒的な欠乏を背景に、クイズ番組などで悪意のない(多少の作為はあるかも)珍解答を行うことで人気をえたタレント、またそうした人物像といったところか。その手の番組はあまり視ないのですが、家族につられて視てしまうと、あまりのレベルの低さに日本の将来を憂いたくなったりもする。視ている分には面白いなどと手放しでは楽しめない。
さてさて、我が娘も小6となり、お受験などが気にかかる歳になった。なにかの折に、地図を広げてフランスの場所を訊いたことがあった。娘が中近東を指した時には、思わず「おバカキャラか!」を口走ってしまった。TVのおバカキャラは人気タレントだから必ずしも軽蔑語ではないが、娘は気分を害して叫びました「おバカじゃないもん」。しかし、彼女は、その指で事実をさし示していると、私には思われました。二・三度教えれば、覚えてはくれます。知らないことは、一度は教えなければならないわけです。思い起こせば、小1の春にアメリカから帰国したときには、和式便器の使い方も、お風呂の湯船の使い方も知らなかった娘ですが、今では立派な日本人(正確には北海道人)です。
TVを与えておけば教養などは身に付くものと思っていましたが、覚えるのはゴシップ話やら、アニメの話やらばかり。娘の日常には教養番組の入り込む余地はなさそうです。一方彼女は最近お塾で日本史の勉強も始めたようでした。教科書に載るような歴史遺産のあまりない北海道。一介の北海道人としては、日本史は教養番組以上に遠い存在かもしれません。そこで、親としては一念発起、この夏は、日本文化を学ばせることにしました。
で、趣味と実益、我々の希望も入れまして、お盆休みにお伊勢参りと奈良古寺巡りを敢行(観光)したのでした。
8月14日の午後。あつい暑い中部国際空港に降り立ち、一歩目で後悔。なんで夏に北海道を出る計画を立てたんだっけ、と娘に聞く始末。暑さに嬉々とするのは南国生まれのかみさん一人。日本文化の教育と神仏への不義理解消の旅である。気を取り直して歩を進める。まずは熱田神宮にご挨拶にあがり、行きがけの駄賃で、近隣の、ひつまぶし発祥の店で、暑気払いのご相伴にあずかる。ありがたや・ありがたや。
お盆には、メインテーマのお伊勢参り。二拝二拍手一拝で、世界平和を祈ります。娘には天照大御神やら三種の神器の話を語って聞かせます。門前のおかげ横丁は江戸時代もかくや、という盛況ぶり。神様のおかげ様への感謝よりは、日頃の知己へのおかげ様とお土産ショッピング。午後は鳥羽水族館とミキモト真珠島で理科やら社会科やらお勉強を続けます。
翌日は、近鉄電車で奈良に入ります。斑鳩・法隆寺から勉強開始。柿の時期にはまだ早いが、正岡子規の句碑の前で記念写真。聖徳太子さんの憲法を復習し、教科書でおなじみの玉虫の厨子を見学します。夜には万燈籠の春日大社をお参りし、高円山の大文字焼きをみて、奈良公園の鹿の由緒を語り、夜の盧舎那仏のお顔御開帳と歩をすすめます。日中からいったい何キロ歩いたことか。平城京、そのまた東の外れといえども、広うござんす。外見重視のサンダル母娘は、限界を超えた足でも歩きます。スニーカー購入を勧めましたが、買ってきたのは別のサンダル。女につける薬なし。
最終日午前中はレンタサイクルで、正倉院から興福寺を回ります。早めのお昼に茶粥をいただき、仕上げに炎天下の奈良町界隈の路地を走ります。関空でシャワーを使いリフレッシュ、夜には旭川に帰着です。
当家伝統の安息のない旅程、詳説するには盛り沢山すぎますが、ガッツでやりとおしたわが娘。彼女の中には、やり遂げた満足感以外、知識として何か残ってくれたでしょうか。ちなみに息子はこの伝統に食傷して、我々とは二度と旅行しないと今回不参加。彼の場合、ウマ・シカではなくトラ・ウマらしい。
あれから10日、ワイフの締め切りを前に、文章のひねり出しに苦労をしていると、娘がお塾で習ったことを質問してきました。「お父さん、松尾芭蕉の句を何か言ってみて」。簡単、かんた~ん。奥の細道から数句授けました。松島やら山寺やら平泉やら地理歴史の解説付きです。つづいて、高浜虚子やら正岡子規なんて名前も出てきます。おやおや意外と高度です。本当に小6のお受験でしょうか。だいたいお父さんは理系です。虚子はちょっと手に余ります。子規ならなんとか、、、、、、、、ん~。そうだ、法隆寺だ。酷暑辛苦の旅の記憶が、さっそく役に立つとは。これぞ神仏の配剤。
「『柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺』、記念写真撮ったよね。覚えている?」
「覚えている!」
ただし、新たな問題も。。。娘は松島や平泉がどの県にあるのか、わかりませんでした。次の旅行はみちのくか、冬もサンダルだとおバカだが。
(2009/08/29記す) |