妻が、タヌキじゃなかった短期留学に出た。私は、自動的に父子家庭の主となった。家族は、小学校6年の長女と太ったアメリカンショートヘア一匹。2ヶ月半の留守番など、大したことではないが、発見がいろいろあった。
発見その一。お受験の長女は、夕方に塾通う。約20分のバス通で、5時から7時までのお勉強タイムである。放っておいてもよかったが、夜7時は日暮れ後なので、仕事の妨げにならない限り、車で迎えに出ることにした。蛇足だが、私が大学病院の外科勤務であったなら午後7時より前に抜けるなど絶対不可能、私立病院さまさまである。で、驚いたことに、お塾は乱立しており、帰宅時間には、各々のお塾の周辺に自家用車の列が出来るのだ。私もその一人となったわけだ。『お受験産業に不況なし。そんなことより、ヒマな親、結構多し!』と世の中のトレンドを発見した次第。不景気な時にも未来への投資は大切なのかもしれない。
発見その二。掃除・洗濯・炊事・食器洗浄は、以前にも書いたが電器製品がやってくれる。ゆえに家事労働での時間的な問題は少ない。が、時間以外の労力は、どうしても省けないし、慣れも必要だった。ちょっとつらかった。掃除ロボットは、床にものがあると十分な働きをしないし、水拭きやモップがけは如何せん手作業である。食洗機だって、食器を装填しなければ働いてくれない。洗濯物は、油断すると色落ちすることが判明した。娘のスカートと私の下着を洗った次の日から、私は週に2回、ピンク色のアンダーシャツを着る羽目になった。医師なので白いソックスを常用しているが、それもあらかたピンク色になってしまった。どちらも見せる人がいないので、構わないのだが。
なお、夕食の用意は親子で楽しく料理本と格闘している。
発見その三。家で一番大きな電化製品の冷蔵庫。しなびた野菜、固まりかかった牛乳から2年前のうどんまで、実に賞味期限切れのものが多かった。これは、共働きという特殊事情の故で、妻が悪いわけではない。しっかり者の諸氏は共感できないかもしれませんが、まあお聞きあれ。共働きではありますが、冷蔵庫は、なんとなく妻の管轄だった。つまり、何が入っていようと、これまでは治外法権。今回、妻の不在を機に、冷蔵庫の収容物の1/3ぐらいを処分した。妻には秘密です。越権行為の罪滅ぼしに冷蔵庫の清掃もさせて頂いた。でも、食材と呼べそうもなくなった食材の廃棄は冷蔵庫の電気消費を考えればきっとエコなのだ。
発見その四。我が家では家計管理は妻の仕事だった。月々の銀行引き落とし項目のなんと多いことか。携帯料金、公共料金、クレジットの引き落とし、学校や習い事の月謝やら。おぼろな記憶で、引き落とし内容のチェックは結構面倒。引き落とし時に預金不足だとあとが大変。さらにその対象口座は、数行の銀行に分散している。給料の振り込まれる銀行からの再配分は、ネットバンキングで行っても、結構煩雑。長年かけて複雑化した銀行取引の構図は、共働きの歪みそのものであった。まだ手がつけられないのだが、この病根にはいずれメスを入れよう。
発見その五。長女と寄り添うように日々過ごしていますが、年老いた後で訪れるであろう孤独のことも連想してしまいます。秘書でもなく執事でもなく、ましてや飯盛り女でもなく、家族として妻は大切です。ネコも寂しがっております。
10月の原稿締め切り日(雑誌WIFEの締め切り日=10月31日)で、神無月は終わりです。本文が活字になる頃には、天照大神は、我が家に戻っていることでしょう。
(2009/10/30記す) |