お父さんのエッセィ

『医者のくせに不養生』と責めないで!!(1996/12/04)


『医者のくせに不養生』と責めないで!!


このところ、外来に出る時はマスクを着用し、鼻声で話すことが多い。
この3ヶ月のあいだに、3回風邪を引いて、まだ全快していないのだ。
外来患者さんに風邪を移すのは、はばかられるし、
新しい風邪をもらうのも、ごめんだからである。
と、
ほとんどの患者さんの私をみる目つきは、
『医者のくせに、不養生!!』という不審の視線である。
それでも、十人に一人ぐらいは『大変ですねー』と、
患者さんのほうが医者を気遣ってくれはするが、、、。

特に、3つ目の風邪がひどかった。
夜来熱にうなされ、熟睡できず、
朝も、悪寒戦慄発熱で、解熱剤の坐薬をさしながら、
それでも、悪寒にふるえ電気ストーブを抱えての外来勤めであった。
看護婦さん達も同様の症状にやられていたから、
どうやら、外来患者さんにもらった風邪らしい。

さて、どうだろう。私は、不養生だろうか?
医者だから、『体は丈夫なはず』というのは、
なにか逆差別的な響きがありはしないだろうか?
医者の中には、体の弱い人間だっているのである。
まあ、
患者さんにしてみれば、風邪引いて病院にかかってみたら、
医者も風邪を引いていたのでは、心許ないし、
『この病院の薬はちゃんと効くのだろうか?』と不安にもなるだろう。
だが、しかしである。ちょっと考えてみて欲しい。
医者の私にしてみれば、風邪は労災である。
職務の遂行上、やむを得ず被った傷病なのである。(有給で静養したいくらいである。)
ちゃんと、診療にいそしんでいる証とも言える。
しかも、流行の病気を身を持って体験しているのだから、
薬の処方も、健康な医者よりも、的を得ているはずなのだ。
だから、
患者さんには、安心して治療を受けていただきたいのである。

熱のために多少思考能力は低下しているかも知れないが、、、、。

せめて
『医者のくせに不養生』と責めないでいただきたいのである。
(1996/12/04記す)