お父さんのエッセィ

『ホタルの里にて』(1997/09/06)


『ホタルの里にて』


 本日はホタルの里・沼田町の病院で派遣当直医として過ごしている。
こんな天気のいい週末をそっくり当直応援で過ごすのは因果なものであるが
そこは人助けと割り切って、またご存じの通りの薄給でもあるので、
殊勝におつとめをしている次第である。

 さて、沼田と言えば最近はホタルが有名である。
町をあげての繁殖育成事業で、幌新温泉にホタルのせせらぎとホタル学習館、ホテル、オートキャンプ場が整備されている。施設としてはこれらの一群しかなく、整っているわりに観光地化されていないのが良い。バンガローの週末の予約は夏中いっぱいでキャンセル待ちといった盛況ぶりで、ご存じの方も多いかもしれない。また、ホタルを捕獲してはいけないとするホタル条例もユニークで、北海道の短い夏にセミのように短い命を燃やすホタルに粋な計らいとなっている。

 わが家でも、当地のホタル祭りに合わせて(7月だったと記憶しているが)ホタル見物に出かけた。
 午後遅くに車をとばし、1時間ちょっとの道のりで到着するとまずキャンプ場を見物し(もう少し子供が大きくなったら是非キャンプに来たい)幌新温泉につかった。女性用露天風呂は充実しているらしいが、男性用露天風呂からのせせらぎと道路の眺め??もおつであった。
 ホタル学習館でまずホタルの基礎知識を身につけ(子供の勉強に最適。幼虫のしっぽも発光するって知ってました??)、外に出るといよいよ日没だ。周囲にはよけいな街灯もなく、車の往来も少ない(制限されているのか?)
 あたりが闇に包まれると、ふわふわと雪虫のように(私にはホタルより雪虫の方が馴染みなのだ)ホタルが舞い始める。源氏ホタルの強烈な発光現象は、分かってはいても、幻想的で見る者の驚嘆をさそう。昔は北海道でもあちこちにホタルがいたのだそうだが、もっと発光の弱い種(平家ボタルだそうな。詳細は記憶していない。不勉強で申し訳ない)で、しかもいまは農薬の普及によってその生息範囲は極端に制限されているらしい。大人には郷愁のひとコマとして、子供には夏の体験学習として、そして人の営みと自然との共存が一筋縄ではいかないものであるという証左の目撃のために(もののけ姫か、おまえは?)出かけてみるとよい。
 ホタルはあちこちで舞つづけ、係りのおじさんがけたたましくスピーカーで解説してくれる。これが迷調子で手作りのホタルの里のまたとない演出になっていた。決して非難しているわけではなく、解説は本当に参考になったが(例えば、メスは低く飛びオスは高く飛ぶのだそうだ)、ホタルには騒音は無害だとも言っている気がしてならなかった??

(おじさん、ちゃかして、ごめんなさい。)
(1997/09/06記す)