お父さんのエッセィ

『外科医なるもの(その3)』(1998/04/19)


外科医なるもの(その3)
『外科医は殺してはいけない』


今回の話はちょっとあぶない文言かもしれないが、
誰かが誰かを殺したとか、そういう話ではない。

人の命を預かって仕事をしている以上
薬石効なく失われる命は少ないーーなどと、うそぶくことは出来ない。
(不遜な気持ちで書いているわけではない、しかし)
亡くなられるご本人や残されるご家族の無念や情念とは別の次元で
厳然として医療の限界や病勢上の不可能というものもある。

それは『殺した』とは言わない。

また、医療を生業とするものも人間であるからミスもする。
ある事象は
優秀な医療チームの面々のチェックをかいくぐって出現する。
しかし、それらの多くは
そのチームのフェールセーフ機構に吸収されてリカバーされる。
悪意がないミス、そしてそれがフェールセーフ機構に吸収されなかったとき、
それは不幸な死という結果を招来する。

悪意や安易さがあれば、それは『殺した』ことになる。

悪意の無いなかで、ぎりぎりのベストを尽くしていたのか
フェールセーフ機構は本当に100%機能していたのか
その追及を自己の良心に照らしぎりぎりまで突き詰める姿勢。
殺さずに済む道を探し続けること。
それがチームとしての向上心だろう。

そうした、あたりまえのことを
COMIC『Dr.Koh』のことばを引用して言ってみると
私の『外科医認識』のひとつとして
『外科医は殺してはいけない』ってことになる。

うまく、おちゃらけられませんで、失礼。


(1998/04/19 記す)