お父さんのエッセィ

『ネコを連れた外科医(後編)』(1998/05/05)


『ネコを連れた外科医(後編)』


雪の峠を越え、ぼくは愛車を走らせた。
ナビシートには愛猫あかね、
そして後部座席にはネコの餌場とネコトイレ。
むかうはK市・K病院。
年越しの診療応援だ。

病院の駐車場にはいると
ぼくは愛猫をボストンバッグに押し込んだ。
病院の玄関をくぐった。
事務職員が当直室まで案内してくれる。
エレベーターの中で、あかねがむずがる。
ボストンバッグがごそごそ歪む。
それをかくすように、ぼくはバッグを背後に廻した。
ようやく当直室にたどり着く。
ラッキーなことに完全個室で、病棟ともフロアーが別になっている。
設備の説明を聞きおわるとドアをロックして
あかねを放す。まずは一息。
ころ合いをみてネコの餌場とネコトイレを運び込み、
ネコを連れた外科医は当直のスタンバイを完了した。

人畜無害の『外科医に連れられたネコ』です。
救急患者が来るとぼくは注意深くドアをロックして診療におもむき
治療が済むと、注意深く当直室にもどり、ネコ付きの布団にくるまるのだった。
夜中におこされるあかねはかわいそうだったが、
これも『外科医のネコ』の定めと諦めてもらうよりない。
(じつはうちのネコには代々仕事を割り当てているのです。 それは『魔除け霊除け』で、ぼくは結構ネコの魔力に期待している??。 病院というのは歴史があればあるほど、そうした特異点となるわけで ネコ付きの布団は実に心地よかった。)

しかし、そうした平穏は早くも二日目の昼には終わりを告げた。
私の診療中に掃除にはいった事務職員が
不用意にも(あたりまえだが)、あかねに逃げられたのだった。
ネコ連れがばれたことも、ばつが悪かったが
あかねが行方をくらました方がショックだった。
異境の地で愛ネコを見失ったら、、、、。
くだんの事務職員からあかねの逃走方向を聞き出し
なんとか身柄を確保した。
(幸いにも外来は混んでなく、わたしは捕り物に集中できた。)
ちなみに、現場はたしかトイレだったと記憶している。
ここにいたって、あかねは晴れて『外科医に連れられたネコ』として
事務方に認知?されることになった。
ときに、雪降り止まぬK市の正月2日のことであった、、、、。

それ以来
あかねは『外科医を連れたネコ』として、否
あたしは『ネコを連れた外科医』として伝説の人になったのでした。


(1998/05/05記す)