お父さんのエッセィ

『ダンデライオン』(1998/05/17)


『ダンデライオン』


わが家には芝生の庭がある。
現在の家を建てたとき、妻が望んで芝をはらせた庭で
サクランボの木とツツジとカエデが季節のアクセントだ。
エンジン芝刈り機を使うほどの広さはないが
手入れには結構手間暇もかかる。

造成後1~2年は青々とした芝で、パターの練習も出来そうなほどだった。
その後、クローバーにやられた。
数年はクローバーの排除作業に夏の余暇を費やしたが
エイリアンのようなクローバーの増殖に
やがてわたしは戦意を喪失し順応した。
クローバーに前後して庭の隅に蕗が繁り
そして最近は蒲公英が新興だ。
花や種子を取りこぼさないためには、はいつくばって手作業での花摘みが必要で
それはまるで黄色とみどりのオセロゲームといった様相だ。
この3年一進一退だったオセロはわたしの順応にともない
黄色タンポポ組の圧勝となった。

採ってもとっても増殖する蒲公英。
癌外科の私は無軌道な増殖を職業柄嫌悪するのだが
順応してしまったのには訳もある、、、。

ある夏の夕方、外出から戻った我が一家。
車を降り玄関の横にたたずむ妻と長男。
彼らは夕日を背に白い綿帽子のタンポポを摘み取り、息を吹きかけ
白い綿毛の飛行をのどかに眺めていた。
なんとほのぼのとした母子の夕暮れだろう、、、メルヘンである。
私がはいつくばってオセロゲームに悪戦苦闘していたその庭で、である。
エイリアンとの戦いには内通者がおり、
私には最初から勝ち目がなかったというわけだ。
『おい、何てことしてくれるんだ!』
叫ぶ私。
それでも、メルヘンモードの妻は、
彼女が望んで造成した庭の運命をなかなか悟れないでいた。
「このひと、何を怒っているのかしら??私は情緒教育(子供とメルヘン)をしているのに、、」ってなもんである。
「いったい、これまで何回ぐらい私の知らない間にメルヘンモードしていたものやら?」私は青ざめた。
何も知らずに除草に明け暮れていた私はまるで、トムとジェリーのマンガにでてくる間抜けなスパイク君のようではないか。

タンポポとのオセロゲームは戦犯たる妻子に引き継がせ、今年も無益に?戦われている。
私は仕事の忙しさもあり、いまはあまりゲームには気が乗らないでいる。



雪深い旭川もいつのまにか花の季節となった。
福寿草が咲き、水仙が咲き、桜が咲き、チューリップが咲き
そして今は
ハーブの季節を前にひと休み、
それは青空と蒲公英の季節なのである。


(1998/5/17記す)