彼は貧乏公務員の三男で
飲んで賭博(う)つ父親と派手好きの母親にそだてられた。
今でこそ就職戦線でもてはやされる公務員職だが
30年も前の国家公務員は質素だった。
少なくとも、彼の家はそうだった。
貧乏が彼をまっすぐ育てたかは、、置いておいて、、、
今でもそうだろうか?
銭湯では湯上がりのいっぱいの牛乳が贅沢だった。
貴兄もご記憶だろう。
白い牛乳のほか、オレンジ牛乳やコーヒー牛乳もあった。
貧乏だから毎日という訳にはいかないが
彼のお気に入りはコーヒー牛乳だった。
それはそれは、
サウナの後の一杯のビールにも匹敵する
至福の味だった。
彼は思った。このコーヒー牛乳を毎日飲みたいものだ、と。
その情念をかかえたまま、彼はいつか医学部を卒業し社会に出た。
ひどく飲むことも、賭博(う)つこともない彼であった。
そんな彼のささやかな贅沢、、、
初任給をもらったその日から彼の部屋の冷蔵庫のなかには
コーヒー牛乳の1リットルパックが常備された。
誰はばかることもなくコーヒー牛乳を堪能し、
彼は自らお金を稼ぐに至った自分をほめてあげたいと思った。。。
家人に彼はいった。
『俺の稼いだ金だ。誰がなんといってもコーヒー牛乳は切らさないでくれ!!。
俺はそのために、医者になったのだ??。』
長年彼にハングリー精神をあたえ、そして今
彼の下腹に皮下脂肪の腹巻き(人呼んで「中年の輪」)を与えたた魔法の飲料。
その名はコーヒー牛乳。
(1998/06/05記す) |