【バイク】
いい季節である。
妻には内緒だが、ときどきバイクに乗る。
現在所有はしていないので、篤志家にかしてもらうのだ。
年に1・2回といったところだが、
出張先の病院で中型・大型バイクを見ると、ついムシが騒ぐのだ。
ムシといっても、真田虫なんかではない。バイクのムシだ。
それで、昔とった杵づか、ならぬ、昔とったハンドルを握ってしまう。
なんと言っても北海道の夏である。
そして、妻には内緒である。
【風】
バイク=事故=怪我・死亡
といった想像力しかない妻に、何を話しても無駄だが
マシンと会話したり、風を読んだりするのは好きである。
気取っていっているのではない。
乗っている人には当たり前の話である。
ある春には芝桜を見に行った。
愛機で峠を越えその谷に入ったときの驚きは鮮明に記憶している。
風が変わり、メットのなかいっぱいに芝桜の甘い香りがひろがったのだ。
そこは現在でも、芝桜の観光地で、その後何度も車で訪れているが、
風が薫る瞬間の同じ感動を再び味わうことはない。
筺の中で、自分のにおいを引きずって走る四輪車には
きっと無理な注文なんだと諦めている。
【キツネ】
今は昔のはなしだが、
限定解除は、規制緩和前のちょー難しい時代だった。
それなりに苦労したし、他人より時間もかかった。
春一番に山添教習所通いをはじめた。
毎朝5時におきて、早朝の市内を練習コースに向かうのだ。
信じないかもしれないが、
市内でも、早朝はキタキツネが散歩していることを
そのとき知った。
北海道第2の都市は実はそんな田舎である。
信じないかもしれないが、
北海道の真ん中にあるその都市で
カモメを見たと言い張る友人もいるから、
私の方がまとも?だろう。
【ねこ】
ま、とにかく朝飯前はバイクの練習に汗を流し、日中は外科医をやった。
週一回午後にもらった研究時間は、
研究をすっぽかし(事情があって研究できないと言ってました、ハイ)、
免許センターでおっかない試験官の優しい一声
『ハイ、君。もういいよ』
を聞きに通った。
『もういいよ』なしに完走できたのは、8月のお盆の頃だったと思う。
完走=限定解除の可能性!!である。
その日センターのロビーで合格発表を待っていたとき、ポケベルが鳴った。
(当時、今のような普及型の携帯はなかった)
それは、愛猫グレースの手術が難航しているとの報だった。
獣医さんが手術にてこずっているとのことで
外科医の私が(本当は飼い主としてですが)召集されたのだった。
免許センターの係りの人に事情を説明し
( 話をどの様に切り出したらよいか、とても困ったが、
『うちのねこが手術中で危険な状態』ってのを真顔で説明した。
公安委員会の人が、『ねこ』の一大事を解ってくれたときには
警官にだって、話の分かる人間もいるのだと??しみじみ思ったものである。)
合格後の手づつきを待ってもらって、(合格したのでした!!)
私は手術に駆け付けた。
愛猫の腸閉塞の手術をしたことのある外科医が
世界に何人いるだろう。
ちなみに麻酔科医たる妻は愛猫に麻酔をかけました。
愛猫に麻酔をかけたことのある麻酔科医が
世界に何人いるだろう。
あの娘は(妻ではない)その冬、静かに息を引き取った。
私の限定解除はそうした因縁の免許なわけで、
文字どおり、血と汗と涙の結晶といえる。(誰の血だ、誰の??)
(1998/7/17記す) |