お父さんのエッセィ

『ソウルにて、その2』(1998/08/20)


『ソウルにて、その2』


湯船に浸かりながら、こう考えた。
知にはたらけば、角が立つ。情にさおさせば、流される。
とかくに、旅ゆけば、人の世は情け???

男性垢擦りエステ?は、身ぶり手振りで無口に始まった。
浴場の隅に一台だけある寝台に仰向けになる。もちろんフリチンだ。
足に付けた鍵をはずされた。唯一身につけたもの?をとられてしまった、、、。
オジサンはせっせと、丁寧に垢をすってくれた。
先客で疲れているはずだが、柔和でかつ真剣な表情だ。
顔とアソコ以外はいろいろ角度を変えながら隈無く擦られた。
(角度変えれーばー、またいい感じーー??)
勢いがあるので結構痛い、でも垢すりに来ているのだから文句も言えまい。
(だいたいが言葉は通じない)
面白いように垢が出る。自分の背中の垢が見られないのがちょっと残念だった。
一通り擦り終わるとサウナにちょっと入って、石鹸で垢を流した。
今度はベビーオイル&つぼマッサージだ。
頭と顔のマッサージが気持ちいい(やはり少し痛いが)。
丹でん(恥骨上のつぼを刺激された)はちょっとびっくりした。
(空っぽでない膀胱を刺激されるのは困る)
顔に蒸しタオルをのせられているので、
なにされているかは感覚で知るのみである。
つぎにベビーオイルとはちょっと粘度の違うものを体中に塗られた。
メンソレータムのようなものらしく、
擦り上がった皮膚がひりひりして熱くなる。
びっくりしたが、これも気持ちいい。ちょっとマゾっけがあるのかな?
マッサージが終わると頭と顔の油を洗い流して終了である。
キュウリパックや牛乳風呂はなかった。
待ち時間を入れると1時間半もかかったろうか。
お肌つるつる、、ではないが、すっごくリラックスできた。
体はぐにゃぐにゃにほぐれた。
わたしのSGB(頚にするブロック注射)に匹敵するくらいのリラックス療法だった。
これは、お勧めである。

オジサンに『カームサハムニダ(どうもありがとう)』とお辞儀をして
脱衣室に戻った。
風呂上がりはコーヒー牛乳にかぎるが、
ここの冷蔵庫にそんなものは入っていない。
ハングル語の缶ジュースの中からリンゴの絵の描いてあるやつを選んで
一気に飲み干した。おいしい。
服を着ていると、
あくまで愛想のいいくだんの三助オジサンがやはりうまそうにジュースを飲んでいた。
服を着終わると、そのオジサンの手招きで、私はビルの一階にでた。

帰りがまた恐かった。

迎えのワゴン車はすぐ来るのだろうか?
ひとりぼっちで、折からの雨をビルの玄関で眺めていると、
おニイチャンがこっちへ来いと手招きをする。
(家内制手工業なのだろうか、オバサン、オヤジ、オジサンのつぎは
おニイチャンだ。)
どうやら、ここの車で送ってくれるらしい??
5分ほどすると一台の車が到着した。
またまた先客が乗っている。
後部座席に乗り込んだが、
運転手のニイチャンは外のニイチャンと何やら口論していて
一向に走り出す気配がない。
今度こそ何処ゾに運ばれて、撃ち殺されるのだろうか?
ちょっと、びびったが、とりあえず隣に座っている先客に声をかけてみた。
『アーユー ジャパニーズ?』
日本人だった。聞けば、あの垢擦りの時の先客だと言う。
私が垢擦りしてもらってた間、この人は車でぐるぐると市内観光していたのだろうか?
聞いてみたかったが、この非常時に敵を増やすのは得策ではないので黙っていた。
車を乗り換えてようやく出発となった。
夕方のラッシュなのか、いつもラッシュなのか、
ソウルの渋滞のなかを小一時間も車は走り続けた。
送ってくれる先はホテルではないことに薄々気づいた。
見知らぬ車窓の風景に不安を感じながらも、
となりに同胞のいる安堵感もあり、
エステ?で気持ちよくなった私は不覚にも眠ってしまった。
目が覚めると、車は何処ゾの裏道にはいり工事現場の横をうろうろしていた。
いよいよ撃ち殺されるのか???

ニイチャンは通行人に何やら話しかけて、どうやら道を聞いている様子。
やがて私たちはとあるビルにたどり着いた。
心配は杞憂に終わった。
そこはかみさん達のエステの店だった。
先客さんは連れ合いを見つけて、一目散に帰っていった。
別れの挨拶は、なし。彼は安堵しつつ慌てていた様子だった。
私はさらに20分ほどツアー会社のワゴン車で待たされた。
お馴染みの車だし、
ニイチャンは帰っていったので、とりあえず命の心配はないようだった。

待たされた理由は、1才の我が長女のウンチだった。
母親のエステを待っている間に、
昨日食べた石焼きビビンバを排泄したのだった。
(もやしが原形をとどめていたそうだから、間違いあるまい??)
彼女もその店のオネエサンにお風呂に入れてもらったとのこと。
すっきりした顔をしていた??
1才にしてエステの洗礼をうけた長女はどんなオネエサンになるものやら、、、

ともあれ、スリルとサスペンスの午後だった。


(1998/08/20記す)