第91回医師国家試験旅日記


3月14日(金)
 目指す宿は東京厚生年金会館。いざ出陣! 安く早くたどり着くためにインターネットで調べておいたルートは、江曽島から新栃木までは東武宇都宮線。そこで東武日光線快速に乗り換えて北千住へ、今度は千代田線に乗り換えて西日暮里へ、またまた山の手線に乗り換えて新宿到着。乗り換えは多かったけれど山の手線以外は座ることが出来、疲れは無し。

 久々の東京は、前にも増して人でごった返し、うんざり。気を取り直して歩くこと15分、東京厚生年金会館到着。3時のチェックインまではちょっと時間があったが、チェックインを申し出ると難なくチェックイン。部屋に入り一服し、地図を広げ新宿駅までの最短ルートを確認。来る時は、迷わないように、大きめの道を選んだので、今度は細い脇道も利用することを考慮し、受験票の受け取り場所の京王プラザホテルへと向かう。新宿駅までは先程よりも短い時間でつくことが出来た。しかし問題は、東口から西口へどうやっていくか。記憶では汚くて狭くて天井が低いガードがあったはずだが場所を覚えていないので、とりあえず駅の中を突っ切ることに挑戦、しかし通れそうな所は見つけられず、外に出る。高架橋を発見、人の往来もあり西口に出られそうだ。ガードを捜した方が早かっただろうが西口に出られた。周りには秋葉原のような電気街が並び、覗いてみたいという誘惑に負けないように一目散に通り過ぎ、京王プラザホテル到着。その豪華な面構えはシングル一泊2万円のことはある。溜息が出る。

 受験票の配布場所へ着いてみると、まだ集合している人はまばらであった。受験票の配布前に説明があるという事だったが、聞いてみると、このホテルに泊まる際の注意ばかり、受験票を先に配ってもらいたいものだ。つまらない話の後にやっと受験票が渡され、説明会は終了。ついでだからと、このホテルに泊まっている友達の部屋を見せてもらうことにする。部屋の窓の外には都庁がで〜んと建っており、まさに真ん前、景色も一流だ。国試のためにこのホテルに泊まることは贅沢だとあらためて感じる。さて、自分のホテルに帰るとするか。

 ホテルに帰る前に夕食を摂ろうと看板を見ながら歩いていると、Newton Shop発見、覗いてみることにする。やっぱり店は小さいな、でもNewtonはでっかいや、色も真っ黒じゃないんだ。購入意欲半減する。Newton2000の発売の知らせをe-mailでもらえる申込用紙に記入し、店を出る。おっとソフマップもあるじゃないか。どれどれ、う〜んなんだかな〜。今度は、ビックパソコン館発見、一通り見たが、それだけで終わる。夕食は結局ファーストフードになり、ホテルへ戻った。

 風呂から出て汗が引くまで休んで、問題集を広げると隣の部屋のテレビの音が気になる。声の調子からすると恐らくNHKのようだ。しばらくしても集中できないので、自分の部屋のテレビを付けることにする。やはり、NHKスペシャルだ。そのままテレビを付け問題集にとりかかると集中できた。正体が分からない雑音は不安を呼び、集中を妨げ、かえって雑音が大きくても正体が分かっていれば安心し、集中できるようだ。もうそろそろ寝ようかと思っていると今度は窓の外から音が聞こえる。やな予感。窓を開け外を見てみるとやはり雨だ。傘を忘れたので、明日は止んでくれるといいのだが。もし雨が明日も降っていたらコンビニエンスストアが近くにあったはずだから弁当と傘を買うことにした。目覚まし時計を合わせ、モーニングコールを登録し、朝の光が差し込むようにカーテンを開けたままにして、就寝。


3月15日(土)
 午前6時30分、モーニングコールで目が覚め、続けて2つの目覚ましが鳴る。これで一つめの関門はクリアー、窓の外を覗くと雨は止んでいないようだ。昨日買っておいたモンカフェを飲むために水を電磁湯沸かし器にかけ、シャワーを浴びる。身仕度を整え、サービスで配られた新聞の朝刊を読みながらコーヒーを飲んでいると、朝食の時間だ。地下の食堂で朝食。今日は和食を頼んでおいた。普段は、おかわりすることはないが、遠征すると決まって食が進みご飯をおかわりする、体調は良好。部屋に帰りがけに外に出てみると雨は降っているが小雨、この分なら傘はいらないだろう。午前7時40分ホテルを出発。途中で弁当を買おうと思いつつ駅へ向かうが、新宿駅へ着いてしまった。京王線のホームへ着くと、周りの人々はほとんど医学生らしい。自分の大学の学生は、見かけなかった。各駅停車の列車ということもあり座席には余裕で座ることが出来た。周りの学生につられ、バックから問題集を出し広げてみるが、一回読んだだけでは頭が回転しない。まだ頭は起きていないようだ、それとも朝食をたくさん食べて血液が消化管へ集まっているためか。明日の朝食は控えめにしておこう。下高井戸に到着。わんさかと受験生がホームへ現れる。改札口を通り、帰りの切符を買い、道順を確認しつつ人の流れに身をゆだね、日大文理学部のキャンパスへ。途中、クラスメートを見つけ一緒になり、少し安心する。2つコンビニがあったがどちらもパン類はあったが弁当は売り切れていた。ご飯にしたかったので、休み時間に買うことにする。

 受験に際しての説明が始まる。試験官は冗談を交えながら注意点を話してくれ、受験生の緊張を和らげてくれた。そしていよいよA問題開始、ホッチキスで問題を閉じる音が教室へと響く。筆記用具以外は机に出してはいけないのだが、注意されることはなかった。ホッチキスは筆記用具?自分も使っているので何とも言えないのだが。

 試験官の合図で終了。例年に比べ難しく感じた。周りの他大学の学生からも同様の声、胸をなで下ろす。さて、弁当を買いに行かなければ。門を出ると下高井戸方面へ向かう人々が見える。また売り切れていることが予想されるので、桜上水方面へ行くことにする。コンビニに着くと中はガラガラ、好きな物を選ぶことが出来た。戻りながらおにぎりを食べる。受験生らしき人とはすれ違わず、下高井戸方面に行っても売れ切れはなかったのかもしれない。教室へ戻り、A問題で気掛かりな問題を参考書で調べるが、大部分載っていなかった。

 B問題終了、また気掛かりな問題を参考書で確認。C問題終了、直後の感想は「ヤバイかもしれない。」であった。しかし、卒試後の感想も良くはなかったので、ふたを開けてみればそれほど悪くはないのかもしれない。と、良い方向に考え、明日につなげる。

 一度ホテルへ戻り、バックから重い参考書類を出し、夕食を食べに町へ向かう。途中デパートなどに寄り、現実逃避。結局またファーストフードで済ませ、ホテルへ戻る。ちょっと歩き過ぎたようだ、ふくらはぎが張っている。風呂へ入り、足をマッサージするが、明日筋肉痛になりそうだ。風呂から上がり汗が引いた後、今日の問題をまた見直すが、手元にある参考書では足りず、答え合わせはあきらめた。京王プラザに泊まっている人には解答速報が回っているはずなので、電話をして聞いてみようと思ったが、答え合わせをしないようにしているかもしれないし、急ぐことはないので、やめた。

 明日、入局を希望している医局の先輩医師に会うことになっているので連絡を取る。出来があまり良くないだろうという事を告げると、おまえが出来ない問題はみんなもできないはずだから、みんなが出来るような問題を落とさないようにすることだと、励まされた。明日の待ち合わせ場所と時間を決め、受話器を置いた。分かっていたことだが、やはり安心する。エヴァンゲリオンの再放送がタイマーできちんと録画されていることを願いつつ、就寝。


3月16日(日)
 今日も、寝坊はなし。雨は昨日よりも強いようだ。今日の朝食は洋食にし、腹八分目に抑える。外に出てみると、傘が必要なようだ、買わなければ。駅と反対方向を見るとそこにはコンビニが、なんと隣にあったではないか。部屋に戻りコーヒーを飲んで出発。チェックアウトをしたので、荷物が重い。まずは隣のコンビニで弁当と傘を買い、駅へ向かう。やはり筋肉痛だが、歩くにつれ筋肉は緩みはじめ、それほど痛くはない。駅へは昨日よりは早く着いたが、時間はたっぷりあるので、また同じ時間の列車に乗る。今日は途中でクラスメイトと会うこともなく受験場に到着。

 D問題が終わり、外へ出てみると寒い、手が震える。E、F問題終了。感触は昨日よりもいいが、解いている途中、眠気に襲われた。こんなんで、大丈夫かいな。帰りに門の所で予備校のA、B、C問題の解答速報をもらい。先輩との待ち合わせの場所に向かう。

 待ち合わせの場所はアルタ前、相変わらず人が多い、先輩達を見つけられるだろうか。そんな心配は無用で、難なく見つけることが出来た。住友ビルのレストラン街の店でご馳走していただき、主に医局のことについて話を伺う。また、しきりに今のうちに遊んでおけと念を押される。食事を終えて駅の近くの喫茶店で喫茶する。先輩方は明日は仕事があり、お疲れのご様子。僕は中野に住む弟の所に行くことにし、改札を通り別れる。ホームで弟に電話をし、これから行くことを伝える。電話の向こうからは迷惑がると思っていたが弾んだ声、嬉しい様子。

 弟の所に着いて話し始めると、やはり試験の結果が気になっているようだ。僕も気になるので、もらってきた解答速報を出し答え合わせを始める。可もなく不可もない結果、合格ラインはクリアーしている。残りのD、E、F問題の解答はまだ無いので、まだ分からないが、まずは一安心、呑みに行くことにする。弟と呑みに行くのは初めてのことだ。いつもは、呑んでもあまりしゃべらないたちだが、やはり血が繋がっているからだろうか、弟とは話が弾む。部屋へ戻り、格闘ゲームで対戦をする。テレビゲームは久しぶりだが、何度か勝つことが出来た。弟は、小さい頃ゲームで負けると泣きわめくほど悔しがっていたことを思い出す。そんな時はもう一度対戦し、わざと負けてやって、なだめたものだ。昔のこと思いつつこれからのことを思い描きながら、就寝。


3月17日(月)
 さあ帰るとするか。天気は絶好の日和。心中も天気と同じように晴れわたり、というわけではない。もう一波乱ありそうな気がしていたのだが、国試はあっけなく終わってしまった。これでいいのだろうか。もしかしてこれからあったりして。いや、それは御免こうむりたい。帰りの電車の中では、そんなことを考えていた。春の日差しの中で帰宅。

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