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★" Star Watching   −120mm双眼望遠鏡−

 

Nikon binocular telescope 20x120 III


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ニコン 双眼望遠鏡 20x120 III, 1983年発売-2020年MC (made in Japan)
口径:120mm, 倍率:20倍, 実視界:3度, 重量:14kg(本体)
メーカーのウェブサイト: ニコン

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幸いなことに、我が家は天の川がそこそこ見える環境だ (右写真、自宅ベランダにて撮影)。 網状星雲 (NGC6992-5) はネビュラフィルターを付けなくても見ることができる (暗い方のループ NGC6960 は流石にフィルターなしでは見えないが) 。 せっかくこのような環境に住んでいるのだから、ベランダには大型双眼鏡を据え付け、いつでもすぐに星空を楽しめるようにしておきたい。 自宅での星見は極楽気分だ。 子供の頃から天文ドームのある家に住むことに憧れていたが、大型双眼鏡が常設してある家というのも悪くないし、その方が実現は遥かに容易だ。

ベランダに常設する機材としては、次のような大型双眼鏡を待ち望んでいた。

  • 口径12cm、倍率20〜30倍程度、見掛視界60度以上
  • 45度対空型、堅牢かつ完全防水
『待ち望んでいた』と言うと語弊がある。 何故なら過去には実際に存在していたモノだからだ。 その名は十二糎高角双眼望遠鏡。 口径12cm、20倍、実視界3度の45度対空双眼鏡で、太平洋戦争中に対空監視に活躍した、いわゆる光学兵器であるが [参考文献: ニコン研究会2012年06月例会]、 現代の光学技術で、性能も新たに星見用に蘇らないものかと淡い期待を抱いていた。 しかし、もう諦めた。蘇りそうにない。 『堅牢かつ完全防水』の条件を外せば機材の選択肢も増えるが、ベランダ常設なのでこれは外せない。 堅牢かつ完全防水で口径10cmオーバーとなると、選択肢はニコン12cmかフジノン15cmに絞られ、大きさ等で色々と悩んだ末、ニコン12cmに決めた。

私が子供の頃、ニコン12cmの広告が天文誌を飾っており、それを見ては夢を馳せていたものだ。 その頃見ていたのは一つ前のモデル (II型) であるが、このIII型の発売は1983年なので、それでも30年以上も前の機種ということになる。 今更という気もしなくはなかったが、今でも天文用途で人気があるニコン7x50SPの発売は更に1年前の1982年だ (ちなみに 10x70SP は1990年、18x70IF・WF は1997年発売)。

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実際にベランダに設置してみると、まるでベランダが船のデッキになったかのようだ (右写真、自作フードを装着してある)。 使ってみてまず感じたのは、モノとしての作りの良さだ。 Shock and corrosion-resistant structure と謳うだけのことはあって頑丈そのものだし、各部には丁寧に気密シールが施されている。 耐候性は素晴らしいもので、連日35度を超える猛暑も氷点下10度にもなる寒波も、今の所ものともせずに乗り越えている。 また、全長68cmの本体は思ったより小さく、その為か14kgの重量も軽く感じる。 実際、梱包を開けて双眼鏡本体を抱えたとき、予想外の軽さに階段を駆け上ってしまったくらいだ。 架台ごと大型のカメラ三脚に載せられるよう、架台とピラー脚を接続する部品 (大型スタンドアダプター) には 3/8W (カメラ大ネジ) のネジ穴を開けてある。

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ベランダに据え付けるときは、三脚よりもピラー脚の方が場所を取らないので断然便利だ。 以前、15cm対空双眼鏡の常設に使っていたEQ6PRO用ピラー脚があったが、直視双眼鏡では接眼部が目線より上に位置する様にしなければならず、それには高さが足りないし、事故の経験(注1)から常設で使うには不安がある。 結局、ニコン純正のピラー脚を使うことにした (右上写真)。 これなら、高度70度まで意外と無理なく見ることができる (中腰姿勢を続けるのは辛いので高さが変えられる椅子も必要だが)。 ところで、常設で怖いのは地震や強風による転倒だ。 ベランダ (正確にはルーフバルコニー) にアンカーボルトを出してなかったので、転倒防止に12x60x400のアルミプレートを脚部先端に取り付けた (右下写真)。 これで計算上は400ガル (震度6程度) の地震でも、風速30m/sの強風でも転倒しない筈だ。

注1: EQ6PRO用ピラー脚の脚部を固定しているボルトを、メンテナンス時にちょっと増し締めしたら、アルミ鋳物の脚部が根元から折れてしまった。 脚部が折れたときも15cm対空双眼鏡は載ったままで、脚部が3つとも外れてしまったピラーだけで奇跡的にバランスし転倒しなかったから良かったものの、転倒していたらと想像すると今でも肝を冷やす。

船舶でも使われている完全防水型なので、使わない時もこのまま放置で構わないのだろうが、一応、ポリエチレン袋とテレスコープカバー (TelegizmosのT311) を掛けている (右上写真)。 このテレスコープカバーは予想以上に優秀だ。 自動車タイヤの保管用カバーは2年程でボロボロになってしまったが、このテレスコープカバーは3年経っても (少なくとも外見上は) 殆ど劣化しなかった。 内側にはアルミ箔が裏打ちしてあるし、価格が高いだけのことはある。 さすがに5年にもなると、外側の汚れが目立ってくるし、内側のアルミ箔も剥がれ始めるが、5年間も使えるなら安い買い物だ。

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架台に載せたときの前後バランスはフロント・ヘビーになっており、クランプを緩めると対物側が下がる。 常に手を添えて使うのには良いのだろうが、星見では前後がバランスしていてフリーストップにできる方が都合がよいので、スキューバダイビング用の 500g の plastic coated weight (鉛を樹脂で被覆した重り、直輸入) を接眼部に取り付けバランスさせている (右写真)。 また、屋外常設だと機材はいつも冷え切っており、夜露が付きやすいので、対物フードと接眼部には、ニクロム線と熱収縮チューブで自作した夜露防止ヒーターを取り付けてある。 目当て (ツノ型見口) も、付けているとアイピースが曇りやすいので普段は外しているのだが、裏技的な使い道がある。 某大型双眼鏡用のネビュラフィルターを逆向きにすると、アイピースと目当ての間に嵌るのだ (右写真、接眼部の緑色はネビュラフィルター)。

ファインダーは OLYMPUS のドットサイト EE-1 を使っている。 筐体はプラスチック製だが、結構しっかりした作りで見た目も良く (しかも防滴構造)、ワンタッチでターゲットスコープがオープンするところも格好良い。 電源スイッチをONのままにしておけば、オープンと同時に電源が入るので使いやすいし、使わないときに格納しておけば夜露も付かずに済む。 ただ、天文用として使うには電影クロスゲージの明度が高すぎる。 そこで、CR2023型のダミー電池と超薄型のFFCケーブルを使い、電池ケースの蓋の隙間を通して外部から給電できるようにし、外部電源のボリュームで明度を落とすことにした。 外部電源はエネループ2本だが、かなり低電流型のLEDを使っているようで、夜間に眩しくない明度まで落とすには100KΩのボリュームが必要だった (もちろんボリューム調整で昼間でも使える)。

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II型からIII型になったとき、残念なことに方位と高度の目盛環が省略されてしまった。 巡視船に納品されているIII型の中には、特注品なのか目盛環を装備しているものもあるようだが、普通の市販品には装備されていない。 それなら付けてしまえということで、方位環と高度環を取り付けた (右写真)。 目盛をレーザープリンター用の耐水シートに印刷したものだ。 試しに、目盛環で昼間の木星に向けてみると…ビンゴ!視野には青空の中でクラゲのように浮かぶ木星が入っていた。 実視界3度の双眼鏡の目盛環は1度の精度があれば十分なので、意外と使い出がありそうだ。 探し難い彗星を見るのには凄く便利。

双眼鏡を月に向け、視野中心 (軸上) で月の輪郭を見ると、色収差が見えなくなる目の位置があるものの、対物は120mm F5のアクロマートなので、目の位置がちょっとでもずれると月の輪郭に紫と黄の色が付く。 16x70 FMT-SXと比べると、目の位置にやや寛容で色ずれは少な目だし、視野周辺部で月の輪郭を見たときの色ずれは16x70より大分少ない。 月の観望も結構いける。 星野に向けた場合、色収差を感じることは殆どないが (明るい赤い星で僅かに赤い滲みを感じる程度で青ハロは出ない)、視野周辺部の星像は同心円状に流れる (HIGH LANDER の21倍と同程度、昼の景色なら結構フラットな視野に感じるが)。

ベランダ常設の前にも導入を考えたことがあったが、その時は見送った。 見送った理由は、まず直視型であることだが、使ってみると直視型も意外と悪くない。 常に星空を向いているせいか、星空を見ているという実感とワクワク感がある。 架台の最大仰角は70度で、これ以上の高度は見ることができないが、天体が西に傾くのを気長に待つ様な星見も悪くない。 見送ったもう一つの理由は、口径にしては20倍と倍率が低いこと。 同じ口径なら、もう少し倍率が高い方が (25〜30倍) 星雲等の見応えがあるだろう。 しかし、大瞳径には RFB (リッチェスト・フィールド双眼鏡) としてのメリットがある (瞳のお話:RFTの条件)。 実際、天の川中心部の暗黒帯が複雑に入り組んだフィールドを、私の他のどの機材よりも迫力ある姿で見せてくれる。 私が最も好きな星空フィールドだ。

これから何十年もの間、我が家のルーフバルコニーに鎮座し、晴れている夜は直ぐにでも星空散歩へ連れて行ってくれることだろう。


追記 (2019/02)

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結露防止に対物フードと接眼部に取り付けてあるヒーターだが、厳寒の真冬だと能力が不足する。 長時間観望するときは、電熱ストープやパープルストープ (武井バーナー301A) を出せば、それらの放射熱で結露は防げるのでこのままにしていたが、この際パワーアップすることにした。 対物フード用は出来合いのものを購入して使うつもりだったが、厚みや長さが上手く合わず (2つの対物フードの間隔は10mmもない)、結局ニクロム線で作り直した。 また、接眼部用は今まで長い被覆したニクロム線を巻き付けているだけだったが、長さを半分 (抵抗を半分) にしてパワーを倍にし、保温材で被覆した (右写真)。 さて、今晩も岩本彗星 (C/2018 Y1) でも見るとするか…


追記 (2019/05)

海外の掲示板で、20x120IIIのマニュアルに20x120と並んで25x120の仕様が記載されていると話題になっている。 その仕様は 25倍、瞳径4.8mm、実視界2.9度、見掛視界は ISO 14132-1 で64.7度、旧表示なら72.5度の広角機だ。 この正体は一体何なのか?過去に一時的に存在したものなのだろうか?

もちろん私も20x120IIIのマニュアルは持っているが、全く異なるフォーマットで25x120の記載はない。 話題になっているのものは、最近のニコンの新しいマニュアルのフォーマットだ。 つまり、マニュアルを新しく作り直したときに25x120が新たに追加されたということで、そこに (仮にかつて存在していたとしても) 過去の機種の仕様をわざわざ載せる意味はない。 やはり、25x120を新たに発売する予定がある (あるいは25倍の特注に今後応じる?) というのが素直な解釈だ。 その他の仕様や架台は共通のようなので、アイピースだけを現行の30mm 視野60度から24mm 視野72.5度に変更したバージョンを追加するということなのだろう。 だとすると、ニコンの双眼鏡の中ではWX双眼鏡に次ぐ広い見掛視界を持ち、18x70や8x30E IIと同クラスの広角機ということになる。 これは素直に応援したい。 個々の星雲星団を見るには25倍の方が見応えがあるだろうし、瞳径4.8mmで72.5度の広角は気持ちが良いだろうなぁ。


追記 (2019/11)

25x120が本当に発売された。 私自身は追加購入したり買い替えたりする余力はないので、当面20x120のままのつもりだが、大型双眼鏡の新製品が発売されるというのは大変に嬉しいことだ。 気になるのは、『像の平坦性にも優れ』とフラットナー入りを匂わせる宣伝をしていること。 いつか新型の25x120を覗ける日を楽しみにしている。 また、20x120もIII型からIV型になった。 実に発売から36年ぶりのモデルチェンジということになる。 具体的にどこが変更されたのか仕様からは分からないし、25x120との関係で型番 (と定価) が変わっただけのようにも見えるが… しかし、なんとタイムスパンの長い業界なのだろう。 デジカメ業界などとは大違いだ。 これだけ年月を置いてもモデルチェンジがあり得るとなると、10x70 III型 とか、7x35EII とか、はたまた十二糎高角双眼望遠鏡II型とかをついつい期待してしまう。


追記 (2021/07)

この双眼鏡にはフードがあるものの、夜露防止にはもう少し長いフードが必要だ。 そこで、黒色塩ビ板 (0.5mm厚) の内側にウールフェルトを張り付けたものをベルクロで円筒形にして使用していた (最上部左写真)。 効果は抜群で、フードをするようになってから対物レンズがあまり汚れなくなった (レンズは曇ると乾かしても汚れが残る)。 しかし、塩ビのフードは熱で変形してしまったため、塩ビよりは少々耐熱性の高いポリスチレン板 (0.5mm厚) に替えて使っていた。 ところが、室内保管なのに2年程でひび割れてしまった。 もっと耐久性の高い素材はないものか… 数年毎に作り直すのは面倒くさい (ミューロン用に作った塩ビ板の同じフードは15年以上経っても大丈夫なので、使い方の問題だとは思うが)。
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そう言えば、昔超望遠レンズで写真撮影をしていたときは、紙を何重にも張り合わせて円筒状に成形し、防水用に塗装したものを使っていたが、十年近く使っても何ともなかった覚えがある。 やはり長持ちするのは天然素材 (紙=木) ということなのだろうか… まぁともかく、画用紙を4重に張り合わせて円筒状にし、塗装して内側にウールフェルトを張ったフードを作成してみた (右写真、根元は20x120本来の内蔵フード、ベルクロはヒーターを固定するためのもの)。 紙の張り合わせだと、どうしても形が少々いびつになるので、見栄えは塩ビやポリスチレン板の方がずっと良いが、長持ちするなら愛着も沸くだろう。 果たして、この紙製フードは何年持つだろうか…


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by Satoshi ISHIZAKA