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★" Star Watching   −瞳のお話−

 

双眼装置の開口径


双眼装置は望遠鏡と人を繋ぐ素晴らしいインターフェースであるが、プリズム (ビームスプリッター) の大きさに起因する様々な制約がある。 例えば、市販されている1.25インチアイピース用の双眼装置の光の入口の径 (開口径)は、大きくても28mmしかない。 この開口径の制限が、視野周辺の光量にどのような影響を及ぼすのか、簡単なシミュレーションをしてみた。

まず、視野中心の光量については、シミュレーションをするまでもなく簡単に計算ができる。 例えば、双眼装置の開口から焦点位置までの光路長が120mmで開口径が28mmとすると、120/28 ≒ 4.3なので、望遠鏡のF値 (口径比=焦点距離/口径) が4.3より小さくなると、双眼装置の開口でケラレが発生することになる。 まぁ、視野中心部に関しては、ほとんどの眼視用望遠鏡で問題ないということだろう。

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次に、視野全体でどのような光量になっているのかを簡易シミュレーションしてみた結果が右図である。 F値の小さいドブソニアン式の望遠鏡を想定し、主鏡のF値は4.6としている。 図の左側半分に黒でプロットしたものがリレーレンズを付けないときの光量で、視野中心からの距離 (像高) に対してプロットしてある。 グラフの上には、TeleVue Panoptic 24mm (PO24) と Nagler type 6 13mm (NA6-13) のアイピースの視野絞り環径の位置を矢印で示してある。 1.25インチアイピースの最大イメージサークルは像高にして13.5mmであるが、そこでの光量は約50%程度になっているのが分かる。 カメラレンズを絞り開放近くで使ったときの光量変化が丁度このような振る舞いを示すが、(天文専用ではない一般用途の) カメラレンズの場合、周辺で50%も光量があれば優秀な方だ。 また、そういうレンズを付けた一眼レフカメラのファインダーを覗いても、目で見る限り周辺光量低下は殆んど気にならないものである。 つまり、開口径が28mmもある双眼装置なら、F4.6の主鏡でも視野周辺まで気持ち良く使えそうだ。

リレーレンズを使った場合はどうなるだろうか? 実は、私が使っている双眼装置のリレーレンズの開口径は、実測で24.5mmほどしかない。 双眼装置自体は28mmの大開口径だというのに、これでは折角の大開口径が勿体ないではないかと心配していたのだが、シミュレーションの結果をみて納得してしまった。 赤線は1.25倍のリレーレンズを開口位置に取り付けた時の光量を表しているが、見て分かるとおり、リレーレンズが無い場合と大差ないのだ。 青線は1.25倍のリレーレンズが仮に28mmの大開口だったと仮定した場合の光量を示しているのだが、それと比べても10〜15%しか差がない。 10%の違いはサイドバイサイドで比べない限り、人の目では分からないだろう。 なるほど、このリレーレンズの設計は、そういう意味だったのか…

ちなみに図の右端の方までプロットしてある赤い曲線は、シミュレーションのモデルにした35cm F4.6のドブソニアン望遠鏡に、主鏡と斜鏡の間を90mm短縮する改造 (1.25倍リレーレンズを装着した双眼装置で合焦させることを想定した鏡筒短縮改造) と、斜鏡短径を90mmに拡大する改造を施し、80mm長の2インチ延長筒を装着した場合の光量を簡易シミュレーションした結果だ。 ただし、私の予想も入っているので実際とは異なるかもしれない。 比較の為に、無改造の場合の光量も黒線で示してある (斜鏡の大きさの違いによる中央遮蔽の違いは無視している)。 もしこの結果の通りなら、鏡筒短縮と斜鏡90mm化の改造を施せば、双眼装置を付けて双眼視を楽しむことができて、80mm延長筒を介せば2インチアイピースで普通に単眼視でも使えるという魅力的なシステムが組めそうである。 ただし、この結果はあくまでも双眼装置に1.25倍のリレーレンズを付けることが前提である。

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話が逸れてしまったが、最後に望遠鏡のF値がもっと大きい場合の簡易シミュレーション結果も示してみたい。 右図はF値の大きいカセグレン式の望遠鏡を想定し、F値を12としたときの結果である。 1.25Xに加え、1.70Xのリレーレンズについても示してある。 いずれの場合にも、像高10mm程度までは全くケラレがないという理想的な状態になっている。 像高10mmを越えると急激に光量低下が起こるようになるが、1.25インチアイピースの最大イメージサークル周辺でも、やはり40%以上の光量が確保されている。

この話には結論らしい結論はないのだが、まぁ強いて挙げるなら、大開口径28mmの双眼装置は制約があるものの、色々と使い出がありそうというところだろうか。



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by Satoshi ISHIZAKA