ロシア最新ニュ−ス 

最初の頁に戻る

2000年11月分履歴

1130

“安くならない住宅”(完)

-モスクワ不動産価格ゆっくりだが上昇-

(独立新聞、1121、政治経済欄、エレナ・ラシキナ)

おそらく、モスクワ不動産市場の春夏の無風状態は終わるかもしれない。長期間低落傾向にあった価格はゆっくりと上昇している。ちなみに八月経済危機から今年の春まで、モスクワの不動産価格は常に低下していた。これは先ず、市民に支払い能力の裏付けのある需要が小さいという、市場を支配している雰囲気に起因する。といっても、不動産業者によると、価格下落の要因はいくつかあるらしい。一つは、取引の大半(約90%)が古い住居を売却し、新しい住居を購入するというもので、現状を改善するための事実上の交換なのである。二つめは、安い住居の需要の低下により、市場が大きく落ち込んでいることである。二次市場では“スタ-リン時代の住宅”需要が低下し、モスクワ全地域で事実上下落した。春にはこうした住宅販売量は全体の約5%であった。ロシアに不動産市場が誕生して今年で十年目となるが、事実上はじめて、“スタ-リン時代の住宅”が最安値住宅分野で人気を失った。さらにもう一つ、これは不動産業者が少なからず重要な需要低下の要因としてあげているものだが、相続契約による取引である。現在、全登記の事実上半数はこうした形の取引にあたる。

 

専門家の意見によると、最近不動産全種類の価格がゆっくり上昇していることは、住宅にたいする需要が多少安定したきたこと、それと市民の支払い能力が高まったことによる。建設費の高騰とモスクワ建設対策局(都市住宅の最大販売団体)による建設価格の引き上げにもかかわらず、販売数ではすでに、合計で昨年に劣らず、さらに今年の夏には季節特有の市場冷え込みも見られなかった。

 

新住宅建設 

一次市場では廉価な住宅供給量は常に減少しているが、逆に需要は増えつづけている。供給量の減少は、住宅建設がストップしたことをけして意味するものではない。供給量減少要因の一つとしては、モスクワのプレハブ住宅建設の権限再分配がある。これまでモスクワ建設対策局が何をどこに、どの期間で建設し、いくらに販売するか一人で決めていた。同建設対策局の専門家は、新住宅の卸価格は人為的に低い水準に抑えられていたと考えている。こうしたことから、若干の住宅業者は倒産の瀬戸際にあった。

 

現在、モスクワ市不動産局分析部責任者ミハイル・コマロフによると、モスクワの不動産市況は多くの点で9月に誕生したモスクワ建設連合会の方針に左右されるだろう。と言うのも、この団体こそが今後の価格ばらつきを調整するからである。モスクワ建設連合会には、建設市場の大企業が加盟しており、連合を組む以前は各々独自に一次市場で自社のシェアを確保していた。計画によると、2001年にはモスクワ建設連合は、モスクワ市当局が建設すべき住宅350万uの中、150万uを自己資金で建設することになっている。さらに市にモスクワ建設連合が建てた住宅70万uを譲渡する予定だし、これは順番待ちの人と五階建て住宅の住民を移動させるためのものである。これについては、“2001年度住宅建設プログラム”に関するモスクワ市の決定に述べられている。今後第一市場の状況が同連合会がどのようなスタンスをとるかで決まることは明白である。そしてこれは潜在需要者に何をもたらすのか、今のところ判断するのは難しい。一つは、同連合の加盟業者がモスクワ市の“1平米”あたりのコスト低下を目論んでいるし、もう一つは、モスクワ建設連合には公共住宅を建設する大きな負担が課せられています。モスクワ建設連合の責任者はの予想だと、モスクワ不動産市場の再分配により、大量建設問題がその管轄範囲としている建設連合は直接の損失を避けるため、その価格を市場水準まで序々に引き上げるつもりらしい。

 

新建設価格上場の最初のシグナルとなったのは、建設業者がモスクワ郊外で行っていた大量建設から、スポット建設に方向転換した時である。当然これはただちに低価格住宅部門に影響した。現在低価格住宅が供給されている場所は、ユ−ジノエ・ブトヴォ地域とマルインスキ−公園地帯だけです。首都市場を分析すると、1平米当たり350ドルあたりの住宅供給はすでに事実上ない。最も廉価で社会的評価の低い地域で取引平均価格でも、1平米当たりすでに450ドルとなっている。昨年マルインスキ−公園地帯で1平米当たり約400ドル付近であったが、現在1平米当たり500ドルよりは安いが、この地域には住宅はない。セヴェルノエ・ブトヴォ地域では1平米当たり500ドルで供給されている。ミチン、ノヴォコシン、ジュレビン地域では廉価住宅はすでに売り尽くされ、これら地域の新建設住宅の価格は二次市場の住宅価格に迫っている。

 

ところが廉価地域全体で最も需要のあるのが従来同様、小規模の一部屋二部屋の住宅である。したがってこの価格が最も高い。中間価格地域では、“二部屋タイプ”が早い勢いで買われている。モスクワ西部地域では、三部屋タイプの住宅が人気がある。

 

事実上全不動産業者は一致して、モスクワ市民にとって住宅選択する場合、環境の状態がますます価値をもつようになってきた、という意見である。こうしたことにより、現代風の低階層建物のある緑の多い地域が大きな人気となっている。現在最も有望地域の一つは、ユ−ジノエ・ブトヴォである。入居が増えるにつれて、この地域の評価は高まると予想されている。ここで状況が似ているのが、ミチンとセヴェルノエ・ブトヴォである。現在この地域の住宅価格は、ベスクドニコヴォ、ビリュレヴォ、デグニノ、ロシノオストロフスキ−、ブラテエヴォ地域のようなモスクワ環状線の内側にある多くのベッドタウンと比べ高い。

 

上流階級の住宅

高級住宅市場は黄金時代とはいかない。きわめて安定的需要があったので、住宅供給が著しく増えた。その結果、高級住宅の販売に若干の難しさが出てきた。支払能力の裏付けの乏しい需要により、価格上昇は歯止めがかけられた。若干の不動産業者によると、こうした高級住宅の潜在購買者の嗜好が若干変化しているという。現在では通常の住宅でも、本当に高級なモスクワの超一流地域では、販売はまったく不可能である。建設業者と投資会社は、普通の標準タイプよりより関心を引き、魅力的な何かを開発する必要に迫られている。市場では、ロシアにとっては事実上新たなタイプの住宅、例えばあらゆる電子機器が備わった住宅供給が現れている。無論のこと、こうしたことはある程度、裕福でそうした最新のものに少なからずお金を出せる購買者の関心を高めてはいる。ところが、ロシアの建設品質を考えると、新しいプロジェクトが成功するか、これは不明だし、一つの回路が切れたら、別の回路が作動するとは断言できない。しかし、新タイプの高級住宅を購入しようて決めている人は、1平米当たり3500ドル以上支払うことになる。

 

と言っても、全体としては高級住宅の価格は大きく値下がりした。現在、高級住宅の価格帯は1平米当たり800〜900ドルと評価されている。価格水準引き上げのあるゆる試みにもかかわらず、購買者の反応はなく、したがって価格は以前に戻っている。建設業者と投資会社はすでに建設済みの高級住宅をあらゆるやり方で販売しようと努めている。

 

それとともに、高級住宅市況は今まで通り、多様である。一つは、住宅販売の難しさと、もう一つは活発な需要である。本質的には、全て“高級住宅”という意味をどう解釈するかにかかっている。つい最近まで、“高級住宅”とは住宅面積が大きいことと解釈されていたが、昨今では高級性を決定する上での最大要因ではない。モスクワ市不動産局分析部責任者ミハイル・コマロフによると、潜在購買者は先ず、地域の高級性、建物のタイプ、インフラ関係の整備具合、そして最後に隣人に関心を持つ。高級住宅の最高価格は現在、1平米当たり5000ドルである。これは通常、最も高級と見られるモスクワの地域であるが、西部、北西部、南西部、それに若干の中心部である。知られているように、モスクワの高級中心部の住宅建設は空地がないでの、事実上終了している。しかしモスクワ環状線の外側に新たに建設される高級住宅地域は確かな立場を築きつつある。最近積極的に名乗りをあげてきたクルキノ地域が高級住宅市場の力バランスに影響しないとも限らない。住宅計画販売管理局責任者グリゴリ・ピルモフによると、この住宅団地には2001年度、非標準タイプの住宅7万3千平米が完成する予定である。クルキノ地域の建設が事実上まだ行われているのもかかわらず、不動産業者はそこの住宅購入の希望が多く出ていると述べている。ここでは価格は1平米当たり600〜1000ドルの範囲である。

 

“二次市場”

二次市場の住宅価格は月に約1.5〜2%上昇している。不動産業者によると、この傾向は来年も続くとのこと。十二月はご存知の通り、主に季節要因によるものだが不動産市場が活発になるが、予想だと、価格上昇テンポは2.5%を下回ると言われる。もっとも、住宅コスト増の原因がないとも言えない。最近、ドル相場実質的に安定し、急速にル-ブルインフレが高まりだし、それにしたがい、不動産価格も含め物価が上昇しはじめている。多少顕著となった国内マクロ経済の安定と国際国内エネルギ−価格の上昇を基に建設業者は平米当たりの価格決定ばかりか、今後の物価上昇を見込み、供給住宅価格に一定程度加えている。もっとも、今のところ誰も不動産市場が根本的に価格情報の方向に転換するとは予想していない。不動産業者の予想によると、おそらく来年度、全体の価格上昇は10%を超えることはないと見ている。

 

しかし現在、平均的なワンル−ム住宅価格はどの地域でも、2万5千ドル以上であるが、今年始めでは、最高値で2万〜2万2千ドルであった。唯一まだ価格におおきなばらつきがあるのが中心部である。90年代始め、中心部は“新しい”ロシア人の間でも最も人気のあるところであった。中心部の住宅にたいする投機需要により、“中古”の公共共同住宅”を追い払うことになった。と言うのも、住宅の高級性は主に部屋数の多さにかかっていたからである。ところが中心部にも、最も廉価の住宅のある場所がある。先ずこのカテゴリ-に入るのは、サド-ヴォエ・コリツオの周辺、クルスク駅、パベレツクキ−駅の周りである。ここでは平米当たり400ドルで販売するこもできるし、不動産業者によると、誰かが購入するといういかなる確信ももてないとのこと。住宅は高級地域でも平均で平米当たり1500ドルで、2000ドルぐらいまで値上がりするかもしれない。ここではインフラが整備されていること、名門校があることが考慮されている。平均では中心部の価格は、平米当たり約1000ドルである。不動産業者の予想によると、その今後に関してはきわめて悲観的に見ている。多くのものは、中心部はすでに所期の目的を達成していると見なしている。現在ここには、現代的な高級住宅が多く建設されているが、ここの住宅面積は様々である。さらに金持ちは現在、郊外の一戸建て住宅に住むことを好み、モスクワの住宅は仕事用である。古い木造の仕切りで出来た部屋数の多い住宅はすでに需要がない。

 

 

1126

“宇宙ステ−ション・ミ−ル、運転中止”(完)

-廃棄したほうが、安上がり-

(イズヴェスチヤ、1116日、エレナ・コロプ)

本日閣僚会議で宇宙ステ−ションミ−ルの今後の扱いについて検討される。宇宙ステ−ションミ−ルが宇宙に留まる可能性 は事実上ゼロである。ロシアには同ステ−ション維持の資金がないばかりか、国際宇宙プロジェクトの自国の責任をはたす資金さえない。

ロシア航空宇宙局代表者ユ−リ・コプテフのよると、今日政府はロシア宇宙ステ−ションミ−ルの運転最終段階について決定承認するはずである。政府はすでに1026日の会議でミ−ル問題を検討していた。そこで宇宙ステ−ション運転用に75千万ル−ブル拠出することが決められた。ミ−ル飛行副責任者ヴィクトル・ブラゴフによると、この資金は多量の燃料を宇宙ステ−ションミ−ルに運ぶための運搬宇宙船プログレスM1”の建造費にあてられるらしい。ところが飛行管理センタ−では今のところ、運搬宇宙船の打ち上げと宇宙ステ−ションミ−ルの廃止の関係がはっきりしていない。したがって、宇宙ステ−ションミ−ルの今後の運命について、政府の最終決定が待たれる。

 

この決定は、2001118日に宇宙ステ−ションミ−ルに飛び立つ乗組員もまっている。の町では、現在四人のロシア人と米国人宇宙旅行者デンニス・チトが訓練をうけている。チト氏は飛行代2千万ドルの契約を商業運用しているミ−ルコルプと結んだ。

多くの専門家は、宇宙で約15年間働き過ごしたミ−ル20012月に軌道から下ろすべきだと、そうした見解に傾いている。宇宙ステ−ション維持には年間約15千万ドルかかる。こうした資金は国家にはないし、宇宙ステ−ションに資金提供しようとする真面目な投資家にもない。政府が今日承認するはずの決定案にしたがうと、外務省、非常事態省、国防省その他多くの省庁は宇宙ステ−ションミ−ルを廃棄する場合の安全確保に関し、各々提案を出さねばならない。国際協定に基づくと、ロシアは宇宙飛行設備を軌道から安全に撤去する責任が他国にたいしある。そしてわが国は、簡単に言えば、宇宙ステ−ションミ−ルが人の頭に落ちないことを保証する必要があると、ユ−リ・コプテフは述べた。

 

今後一ヶ月以内に政府は最終決定を下し、宇宙ステ−ション廃棄の資金を探し出す必要がある。設計者の計算だと、それは6億ル−ブルですむらしい。ところが今、ユ−リ・コプテフによると、国際宇宙プロジェクトの義務をはたす資金すらない。

 

政府の会議では国際宇宙ステ−ションのことも議題になるだろう。さらにインテグラル計画の進み具合も議論されるはずである。これは、ロケット運搬船プロトンでヨ−ロッパ天体物理学研究用人工衛星の打ち上げを意味している。プロトンをロシアは必要資金が不足のため、現在まで提供していない。ロシアはまた、全世界気象システムに関してもその義務をはたしていない。ユ−リ・コプテフのよると、ロシアの人工衛星はだいぶ以前のその寿命を終えているし、わが国は他国の人工衛星でその不足を補うつもりである。

 

来年になれば事態が一変するという可能性はきわめて期待薄である。ロシア宇宙航空局代表の発言によると、今年春政府は国際宇宙プロジェクトの参加プログラムを承認し、それによると2001年度、国家予算として83億ル−ブル割り当てる予定になっている。ところが現在、来年度予算案ではこの目的にはその半額をとなっている。

 

 

11月20日(月)

“ロシア、「鉄鋼戦争」を惹き起こすかまえ”(完)

-政府と鉄鋼産業は米国と欧州市場に突入する決意-

(独立新聞、1118日、デニス・プロペンコ)

経済振興・通商省広報部は、予め約束したあった同省次官マキシム・メドヴェドコフと会うことは不可能であると伝えたきた。「次官はヨ−ロッパに至急出発すのでの、お会いすることはできない」とのことである。少し後になって、その緊急性と異常性の原因がわかった。貿易交渉を担当している同省次官は、前日ロシアの事実上全ての鉄鋼輸出業者と代表者会議を行う必要があったからである。この会議には鉄鋼三大企業(ノヴォリツエプ製鉄コンビナ−ト、セヴェルスタリ、マグニトゴルスク製鉄コンビナ−ト)の首脳、西シベリア製鉄コンビナ−ト、ニジネタギリスキ−製鉄コンビナ−ト、オスコル電気冶金コンビナ−ト、ノスタ社、メチェル社、VIZスチ−ルの各経営者、工業科学省鉄鋼局代表者が参加した。

 

この非公開代表者会議の結果とは、欧米市場への突入を促進するため、立場を強化する共同決定をし、ロシア全体の製鉄企業の統一した立場をつくることであった。一方、全製鉄企業の会合を持たせた原因とは、欧米市場輸出問題でだいぶ以前から立場を統一する必要があったからだ。1130日、EU石炭・鉄鋼委員会の会議が行われ、1245日、パリで米国向けロシア製鉄鋼の輸出に関する交渉が行われるはずである。

 

ある情報によると、選択した立場はノヴォリツエプ製鉄コンビナ−ト副社長アンドレイ・ペトロシャンが提案した最も強硬な方針らしい。この立場の内容は、今年9月米国にたいし表明したロシアの要求が満たされない場合、米国向け鉄鋼輸出包括協定から脱却するというものだ。問題は米国市場にロシア製鉄鋼を輸出したことにより、危険な状況が生まれていることである。ロシア製鉄業の赤字は1998年から専門家の評価で15億ドルと見られている。ロシア製鉄業には、月間割当て量で定められた量以上は一グラムといえでも輸出できない。こうした状況は1999年から続いており、ロシアは米国商務省の圧力で自己規制協定に署名し、協定以前より大幅に少ない鉄鋼輸出を余儀なくされている。

 

協定条件によると、毎年輸出割当量はその増加の方向で見直されるはずであった。さらに常任委員会により、四半期ごとにロシア企業が米国に輸出する価格も見直されるはずであった。現在協定は事実上機能していない。と言うのも米国側は拘束力のある協議に積極的に参加することを避けている。たとえば、ロシア代表団は今年9月、米国商務省の代表者と会談をもち、自分たちの要求を伝えた。この要求内容とは、自動的に価格変更することと、割当量増加が行われておらず、これはこの協定自体、機能していないことを意味している。米国はロシアの要求を考慮し、二週間以内に返事すると約束した。それから既に三ヶ月経っているが、どのような返事もない。分かりきったことだが、米国は選挙運動の真最中であり、米国民主党政府にはどのような譲歩も、敵方に利用される可能性があるからだ。

 

 

11月19日(日)

“国家、銀行問題に懸念”(完)

-国会議員、金融機関の資産調査実施を要求-

(独立新聞、1116日、エカテリナ・ヴラソヴァ)

銀行システムの改革はロシア経済の金融部門全体の生き残りのため、必要条件である。まさにこのテ−マで、連邦会議で最近聴聞会が行われた。参加者の発言によると、ロシアの銀行機関は1998年危機の後遺症を徐々に克服し、最近の経済実体に適応しはじめている。基本的には、主なサ−ビス業務を提供するという、金融機関の能力回復課題は解決され、銀行機関の生命力の根幹は維持され、また1999年に見られた総資本増加の傾向がさらに発展した。ところが全体として見れば、このプロセスを絶好調であるとは言えない。銀行機関は今日まで、運転資金と流動資金が不足していた。銀行の貸出能力は低いままである。現在ある、銀行業務のリスク水準はあいかわらず高いままである。経済の現業部門にたいする融資の増額は全体的リスク水準が上がらなくとも、以前通り不可能である。

 

この二年の間に緊迫した段階だけは乗り越えたが、銀行機関が危機以前の水準に戻れるのは、来年度になってはじめて可能性がある。国会銀行委員会議長アレクサンドル・ショ−ヒンの意見だと、こうした緩慢な回復の主な原因の一つは、銀行法の不備であり、この法律をショ−ヒンは完全な失敗と呼んでいる。同議員によると、この分野の行動はあまり効果があがらない、と言うのも政府、中央銀行、大統領府がいくつかの法律で妥協策を作り上げることができないからだ。

 

ショ−ヒンは、個人的には大統領府がどんなスタッフで改革をしたらようのか、この問題をけいして解決できない、そうした印象があると述べている。ロシア中央銀行第一副総裁タチヤナ・パラモノヴァはあまり早くないロシアの銀行改革についてIMF専門家の評価をコメントし、「再編ということを生き残れる銀行と生き残れない銀行に区分するという意味だとすれば、免許を取り上げの兆候のある銀行は事実上ない。したがって現行法での再編は既に完了している」と述べている。

 

改革の最重点の一つとして、パラモノヴァは銀行部門の増資、キャッシュカ−ドシステムの拡張も含めた新しい銀行設備の導入、それと電子署名と電子送金についての法律を早く通す必要がある電子決済のいっそうの普及をあげている。中央銀行副総裁に意見によると、銀行の最新技術の点ではわが国は世界から遅れをとっているし、近い内に状況が根本的に変わらなければ、ロシアの金融機関は世界標準に適応することができないだろう。特に中央銀行副総裁は会計報告の世界標準に移行する必要があると述べている。パラモノヴァはまた銀行監督機能を中央銀行から分離するという、常に出てくる問題に関し、中央銀行の立場を明らかにした。同副総裁によると、ロシア中央銀行はここ数年のうちは、この問題に関し何にかを変える必要ないと考えている。もっと重要なことは、監督内容を充実し、リスク評価を国際標準に近づけることあるとしている。

 

国会聴聞会でロシア連邦会議とロシア政府にたいする勧告が用意された。特に連邦議会には金融機関倒産法の整備及び、入札または国も参加する専門金融機関を通して予算その他の財源を利用できるようにするため、銀行及び銀行業務連邦法の修正、それと金融機関に国が資本参加する問題を法律制定し解決することを勧告している。

 

金融機関再編機構の機能もまた法律的に明確する必要がある。いろいろな案としては、金融機関再編機構を銀行整理手続きに責任ある国家機関または預金の保護と返済保証する国営企業に変えることが提案されている。

 

預金者の利益保護と銀行への信頼回復のため、自然人の預金を法律的に保証する作業を早めるべきである。各議員は銀行機関の税法整備問題にも触れた。とりわけ、銀行利益にたいする税率を銀行機関外企業の水準まで下げることが提案されている。

 

ロシア政府と中央銀行には、どのような金融機関が生き残れないか定め、整理を行うために、きわめて短期間に銀行機関の資産調査を実施し、銀行管理基本問題を解決するよう提案された。また銀行監督の国際原則に基づき銀行業務の情報公開性と透明性を高める総合対策を実施し、国際標準の会計計算への移行を完了する必要がある。各議員はまた、国家の資本参加が50%以下の金融機関からロシア政府が撤退し、国も参加して金融機関の統合の必要性を指摘し、国の資本参加の大きい銀行の発展計画を作成する必要があると指摘した。

 

 

1116

“質的転換の芽生え”(完)

-ロシアの産業成長は投資活動を呼び起こしている-

(独立新聞、115日、オリガ・イズリャドノヴァ:過渡期経済問題研究所上級研究員)

1999年〜2000年、ロシア経済の特徴は生産の急激な伸びにある。GDPの好調な推移は1999年第二四半期から記録され、経済の基幹部門の生産成長で維持されている。その際、1999年は産業の急激な成長が他の経済部門の生産低下を補ったとすると、2000年では建設部門やサ−ビス部門が経済発展テンポの加速に積極的な貢献をしている。

 

投資商品や建設関係の仕事にたいする需要が伸びて、1999年下半期ではここ十年間初めて固定資本における総蓄積の伸びが記録されている。1999年、固定資本における総蓄積の伸びは2.4%であったが、20001月〜9月の期間、中間統計では8.8%である。2000年第三四半期では固定資本における総蓄積の伸び率は前年同期の13.7%にたいし、17.6%まで上昇した。

 

20001月〜9月期、前年同期にたいする投資の伸びは17.5%で、基幹部門では8.4%、産業全体では9.7%の製品及びサ−ビスの生産増加であった。サ−ビス部門と比較し、製品製造の予想を上回る伸びは、投資資金の流れの再編によって維持されている。商品部門にたいする投資の割合は2000年上半期では、51.7%で、前年同期は49.3%であった。投資と経済各部門の比率変化に大きな影響を与えたのが、産業における投資活動の活発化であった。支払能力の裏付けのある需要が伸びるにつれて、事実上経済の全部門で財政状態が改善された。基幹部門の企業や団体の利益は、19991月〜8月期と比較すると、実質的に二倍となった。中間決算によると、同期における産業の収益はほぼ5%伸びている。企業は自己資金により、固定資本にたいし53.5%投資している。1999年から投資融資構造に体系的な蓄積増加の傾向が見られる。1999年上半期と比較すると、企業の自己投資資金の中、積立て基金の割合は8.6%伸びた。

 

生産収益の向上とともに、自己資金と融資資金の割合が変化している。特筆すべきは、本年度投資需要の活発化に大きく影響したのが、企業間の決済構造に変化があったことである。製品及びサ−ビス業務にたいする決済での通貨資金割合が増え、企業資金が蓄積されるつれ、銀行の貸付金や融資額の割合が1999年上半期と比較し、2.9%伸びた。融資額の割合の伸びは主に燃料及び鉄鋼業という輸出型部門にたいする投資魅力が高まったことによる。

 

中間デ−タによると、石油採掘にたいする投資は1999年上半期と比較すると、ほぼ二倍増えた。本年度は新たに1735ヶ所の油井が運転開始したが、これは1999年度と比較すると、42.1%の増加である。20001月〜6月期、前年同期比で石油会社の操業油井の数は63.0%、試掘油井の数が24.5%増加した。さらに油井の運転利用効率が向上した。以前運転中断していた油井を操業させたことにより、20001月〜6月期石油710万トンが増産され、これは同期ロシアの石油生産増全体の86.8%にあたる。石油精製業では、本格的な原料加工技術を利用し、石油製品の生産が増加した。石油生産条件の変化と保有設備の利用効率の向上により、石油加工コストが低下した。客先石油の加工サ−ビスコストは20005月と比較すると、6月では1.6%低下した。

 

非鉄冶金部門では原料供給先の事情で生産制限されていたが、地質調査にたいする投資額が増えた。製鉄業では新技術による製造が本格化している。例えば、鋼鉄精錬では連続鋳造設備から出る良品ビレットの割合が50.2%まで向上した。

 

投資需要が高まるにつれた、設備や構造材の生産テンポが上昇した。機械製造部門の生産増は今年1月〜9月期、16.0%の伸びで、建設資材では9.5%の伸びであった。ここで1999年〜2000年の間、機械製造部門の新たな現象は、部門間の関係に変化があったことである。1999年以前、自動車産業は機械製造部門全体の成長テンポを上回るテンポで発展していた。工業生産の推移と比較して、機械製造部門の予想を上回る成長テンポは固定資本の再生産性の変化によるもので、これは現在機械・設備刷新の加速や新技術の導入に向かうものである。需要の増加や競争環境が変化し、機械・設備生産の増加は冶金、石油生産、消費物資、輸送、通信向け製品生産拡大によりもたらされた。

 

機械製造部門にたいする投資指数が低いことは、ロシア経済にたいするこの部門の潜在貢献度を低下させている要因である。輸入設備機械にたいし国産設備機械の価格関係が有利で、輸入が減少しているにもかかわらず、ロシアの製造業は今年になると、1999年度と比較して、機械製造部門で利益増加テンポの急激な鈍化と収益の低下という問題に直面した。この部門の製造設備状態は、機械製造業全体の生産性低下の要因である。しかしながら、改革期において機械製造部門では一定の成長力が作られたと注目しておく必要がある。はっきりと目の前に具体化したのは、通信産業の著しい生産増である。通信や情報サ−ビスの急激な発展は、ここ十年間のロシア経済では特徴的なことで、新たな最新通信手段の導入に向けられる投資活動が伸びたことによる。技術手段の主なものは輸入であるが、同時に外国資本の参加した生産も大きく発展し、また輸入組立品や外国会社のライセンス生産品も伸びた。19988月危機後、景況が変化するにつれて、輸入代替品の生産発展こそが、生産拡大に刺激を与え、国内市場の通信産業の好調な立場を決定づけた。

 

全体としては機械製造部門は潜在的成長力を見せてはいるが、工業全体におけるその占める割合は低下傾向にあり、中間製品を製造する部門にその地位を奪われている。生産構造の中で資本形成部門の割合の低下は貯蓄力を抑制し、国内経済の投資環境に悪影響を及ぼす要因である。

 

1999年〜2000年の期間、生産の安定した好調の動きと支払いの裏づけのある需要の伸びは投資市場の状況を変えた。生産収益が伸びるにつれて、企業は投資計画実現に向けて積極的に投資し始めたが、この状況を投資ブ−ムと見るには、まだ時期尚早である。

第一に、好調な対外経済市況と関連し、国民総貯蓄が安定して伸びているにもかかわらず、それを現業部門の投資に転換するメカニズムは事実上機能していない。貯蓄、固定資本における蓄積、現業部門にたいする投資動向を比較対照してみると、純粋な蓄積は後退している。固定資本の再生産には主に償却資金があてがわれている。大修理費用は削減傾向にあり、こうした資金を投資目的に向けてはいるが、企業の自己資金ではせいぜい単純再生産が精一杯である。と言うのも、投資に用いる商品や建設費が予想を上回る高騰で、生産設備規模拡大を制限している。

 

第二に、投資融資機関がないこと、証券市場が未発達なこと、法関係が不確実なこと、こうしたことが借入金や銀行融資プロセスを複雑にしている。実際、経済には部門間の資金移動メカニズムが形成されていないし、それは企業、部門、地域レベルの投資活動を困難にしている。経済が成長している条件では、投資の管理と、ロシア経済のダイナミックな再編プロセスは足並みのそろわないことが分かった。そして第三に、経験が示すように、貯蓄余裕があっても、投資の決定には大きな慎重さと投資資金の流れを改善することが求められる。発展と優先順位の長期戦略がないことは、長期投資の動機を低下させる要因となっている。

 

(続く)

 

 

 

11月12日(日)

“東ヨ−ロッパの今日と明日”(完)

-モスクワは構造改革に目を向け、競争力強化をはかるべきである-

(独立新聞、115日、政治経済欄) 

本日独立新聞経済欄は、世界最大銀行の一つ、ドイツ銀行が行った東ヨ−ロッパ諸国

の経済状態分析の抜粋を掲載します。この分析ついての関心には理由があります。中央ヨ−ロッパ、旧ソ連邦諸国、トルコの経済動向を分析するドイツ銀行専門家の視点に立つと、外国専門家から見たわが国の現在の状況がどの程度良く、どの程度悪いか、理解できます。まさにこうした専門家の見解こそがわが国市場にたいする大投資家の到来の可能性を決定するからです。

東ヨ−ロッパ経済は1998年第二四半期から1999年第一四半期にかけてロシアの大経済危機後、大きく発展した。1999年の国内総生産0.5%と比べると、2000年では東ヨ−ロッパ、CIS諸国、トルコの国家総歳入は4.6%増加した。来年の成長は4.1%になる可能性がある。

 

こうした予想の根拠となるのは主に、これら諸国製品の輸出増である。それでも、その経済発展には大きく根本的相違があり、それは三つの要因によるものとして説明できるかもしれない。第一点はEUとの貿易関係の強化と経済の公開性である。この要因は輸出による収益を高め、EU諸国からの投資を促進させる。この地域の多くの諸国はEU諸国に自国輸出の50%以上を仕向けている。2001年までにはヨ−ロッパゾ−ンが3.8%拡大される可能性がある。

 

第二点は世界経済の中で国家を立て直し、輸出のメリットを活かすという、地方自治体提起の構造改革の力である。選挙は重要な改革を妨げるかもしれないが、必要な法律が承認されれば、改革実行を加速できる可能性が生まれる。

 

第三点は、燃料・金属輸出企業が、世界市場の需要が高いので、大きな利益をあげている。ところが現在の傾向維持の期待はこうした諸国では失望となる可能性もある。我々は、石油平均価格(ブレンド)が2000年では1バ−レル28ドル、2001年では25ドルと見ている。

 

加速する成長

チェコ及スロヴァキアも含め中央ヨ−ロッパ諸国の経済成長は、ここのところ急伸している。ここで先頭を走っているのが、ハンガリ-とポ−ランドである。もっともポ−ランドはEU諸国との貿易関係は強いが、まだ経済の公開性が弱い。貿易収支と国家財政問題、それに高金利により、2001年同国の経済は弱化すると見ている。

 

ロシア危機の影響を特に強く受けたバルト諸国では、そのトップは相変らずエストニアである。南ヨ−ロッパ、南東ヨ−ロッパではスロヴェニアとクロアチアが先頭に出た。ブルガリアは若干その後である。ル−マニアだけが1998年〜1999年の後遺症で大きな困難に陥っている。一方トルコ経済はわき目ふらずまっしぐらに前進している。

 

独立国家共同体では、ロシアはトルクメン、カザフスタン、アゼルバイジャンとともに、高い商品価格や輸出増で利益を出している。だがロシア経済は2001年、成長テンポ低下の可能性があり、予想される石油価格下落とル−ブルレ−トの弱化によるものである。

 

EU加盟

EU加盟の見通しは、一定の経済安定要因によりまだないように思える。だが数年のうちには状況が変化するはずである。と言うのも、こうした展望は構造改革を実現しようとする政治意志を発展させるし、法基盤を整備させたり、EU側からの財政支援を保証させることができるからだ。我々の基本的見通しでは、八カ国は2005年にはEUに加盟するはずである(エストニア、ラトヴィア、リトアニア、ポ−ランド、スロヴァキア、スロヴェニア、チェコ、ハンガリ−)。ブルガリアとル−マニアは2008年以前には承認されないだろう。展望が良い点では、トルコとクロアチアもそうである。今のところEU加盟の現実的見通しのその他の諸国は、変革の覚悟があることを立証する必要がある。

 

流動性

リスクのある市場全体の流れにしたがい、東ヨ−ロッパの多くの国は1999年下半期から急激に輸出を伸ばし、資金面の状況が改善され、投資リスク低下に一役かっている。もっとも、構造改革を実施し、ただ国内通貨切り下げのメリットや原料高値だけに依拠している国家間には本質的相違がある。

 

原料を輸入している国家の多くでは、取引高における輸入割合の増加から、あまり良い傾向でないと言わざるえない。特にこれはポ−ランド、トルコ、ウクライナにあてはまる。ちなみにロシアとカザフスタンは石油輸出国であるが、それでも輸入が増えている。と言うのは、これらの国では対外貿易に大きなアンバランスがある。2001年なると、石油輸入国は負担が軽くなるかもしれない。カザフスタンのような国は自国の輸出量を増加しないと、収入が減少するだろう。

 

直接投資

海外からの直接投資が大幅に増えると、東ヨ−ロッパの資金面が改善される。1999年には220億ドルの投資があるとして、2001年には海外からの直接投資が260億ドルまで増えると予想する。この投資額の半分はポ−ランド、チェコ、ハンガリ−に流れるだろう。こうしたことは、EU加盟の見通しが投資誘致の重要な要因であることを意味している。と言っても、EU加盟要因は直接投資にとって、例えば民営化や経済の公開性と比較すると、さほど重要でもない。ことろがこうした点では、はるかに利益のある点では同様のスロヴェニアやポ−ランドと比較すると、クロアチアが浮かび上がってくる。天然資源の有無そのものは大型直接投資を約束するものではない。ロシアのこうした評価が低いので、それを如実に証明している。

 

国家予算

東ヨ−ロッパ諸国の経済成長は国家財政状態を大幅に改善した。ロシアの金融危機は政治家に国家予算を充実させる必要があると、その目を向けさせた。税制改革はロシア、カザフスタン、ウクライナのような国でも検討された。ポ−ランドやチェコのような国での改革の遅れは、長く続くことはないだろう。国家予算の若干の赤字は、それがEU加盟の準備や、インフラ整備、市場改革の実行を妨げている障害を克服するために用いられるのであれば、やむ得ないかもしれない。ポ−ランド、チェコの当面の問題が我々の目に入るが、今後の発展は前向きに評価している。

 

通貨金融政策

ロシア危機後多くの国家の通貨金融政策の基礎となったインフレと金利の低下、それと石油価格の上昇はまだ終わってはいない。ところがこれは来年になると発生するはずである。

インフレはカザフスタンとロシアでは大きく低下したが、もっとも価格リスクは通貨レ−トの根拠のない強化や外貨流入が大きく伸びたことにより、上昇している。トルコの通貨金融システムの安定計画は20001月に開始され、今のところ順調である。ハンガリ−ではインフレが2000年には高まりはしたが、好調な傾向は目下崩れていない。バルト諸国とチェコのインフレ上昇はまだ管理範囲である。

 

来年、石油価格の下落、ユ−ロ高によりEU加盟候補国にとってインフレ対策が楽になるはずである。通貨市場も負担軽減させるはずである。東ヨ−ロッパ諸国は正当な通貨レ−トを設定し、通貨は1998年〜1999年と比較し安定すると我々は予想している。

 

現在のユ−ロ安は自国通貨とEU通貨が連動している国の通貨には悪影響しないだろう。ヨ−ロッパゾ−ンは輸出も、輸入も保障する最も重要な取引パ−トナ-である。

 

復活の傾向

東ヨ−ロッパではマクロ経済の改善、構造改革、政治改革により、国際格付け各会社は東ヨ−ロッパ諸国にたいする投資リスク評価も変えた。さらに長期投資評価は基本的に上向きとなった。だが変更はゆっくりと行われている。と言うもの格付け各社は石油高値のような要因の影響を避けようとしているからである。

 

さらに前向きに評価する要因は存在する。これは経済成長に良い展望があること、国家予算の強化、インフレの低下、収支状態を左右し、外貨準備高を増やす貿易取引の増進である。リスク評価は各国政府が実施している経済政策と大きく関係する。構造改革にたいする政府の政策がどの程度適切であるか、それが判断されている。我々の考えだと、政府がすでにはっきりと経済改革の目的を理解している国家にたいする、国際格付け各社の評価は当然改善されるはずである。

 

スロヴェニアがEUに加盟する公算はきわめて高い。したがってこの国の経済評価はここ数年で最も高いものであった。その最大の成果は、経済の完全な安定性と国民一人当たりが高いことであるが、ちなみにこれはポルトガルとスペインにたいし、EUが設けた基準に近づいている。輸入依存度はますます低下している。その結果、格付けに変化なしである。

 

チェコの状態は急激な経済成長と政府のダイナミックな構造改革政策により改善されている。この国に最大の特徴は対外貿易の改善にある。貿易赤字は長期投資の流入と比較すると、より小さな上昇である。その上、対外債務がきわめて小さい。格付けはプラスである。

 

20002月、格付け会社SPはハンガリ−の格付けをBBB+まで引き上げた。これはまったく正当な評価である。経済成長はしっかりしたもので、現在の貿易収支に立脚したものである。国家財政の赤字は低減し、またEU加盟の話も少なからず希望を与えている。この国の経済は今後も伸びると予想する。格付けはプラスである。

 

2001年に予想される国会選挙はポ−ランドの状況をきわめて悪化させている。現在の少数与党は構造改革実施には大きな力がないと思われる。さらに現在の貿易赤字は一定の懸念を抱かせる。だがEU加盟の可能性が保持されており、今のところ経済安定化の力となっている。格付け、変化なし。

 

1999年第一四半期からスロバキアは改革路線をとるようになり、若干の成功をおさめた。この国の見通しはきわめて否定的に評価されているが、改善される可能性もある。格付けはプラスである。

 

バルト三国の見通し評価は、前回1997年に変化した。1998年、1999年ときわめて好調であったのだが、国家財政面の改革はうまくいき、EU加盟の見通しが出てきた後、実態に見合うようになってきた。格付けは変化なし。

 

1997年から変化していないクロアチアの評価は数ヶ月以内に変える必要がある。2000年始めに行われた国会選挙と大統領選挙は政治的な意味でも、経済的な意味でも西側への道を開いた。同国はEU加盟候補国に出されている要求をきわめて近い内に達成できるだろう。格付けはプラスである。

 

20001月に始まったトルコの改革は同国の経済見通しを大きく改善し、格付け会社「Moody“s」の格付けを上げさせた。トルコの展望は格付け会社「SP」によっても今年7月に確認されている。格付けは変わらず。

 

格付け会社「S&P」のおかげて、今のところトルコ経済に匹敵する経済だと認めるのは無理と思われるカザフスタンは、それでもトルコと同じグル−プに入っている。その理由は、1999年国内通貨の平価切下げとカザフスタンの伝統輸出品の世界価格の上昇による貿易収支の大幅改善である。この国は、1999年に成立した政府が構造改革方針を続け、ガス・石油パイプラインの建設を完了すれば(2001年以降)、今後も国家状態を改善しつづけることができる。ところがカザフスタンの経済は石油や金属の国際価格の不安定さとカスピ海をめぐる政治紛争をかかえているため、きわめて脆弱である。格付けはプラス。

 

アゼルバイジャンも同様で、「Fitch IBCA」の格付けで+“となった。格付けは変化なし。

リスクの程度、要因ではブルガリアはきわめてトルコに似ている。大きな債務、石油輸入の大きく依存すること、低い工業成長率、これらが主な弱点である。20014月の予定している国会選挙前にしっかりとした改革プログラムの実施は、ブルガリア政府には難しいだろう。それでも我々としては、同国の経済成長は加速されると見ている。格付けは変化なし。

 

ル−マニアの評価は通貨流通危機克服で大きな困難をなめたのだが、1999年は驚異的に安定したものであった。だが見通しはさほどよくない。輸入依存度が高く、経済の重い負担となっている。重要経済法案の採択は200011月の国会選挙前では難しい。格付けは変化なし。

 

ウクライナの評価はヨ−ロッパの債務がレスケジュ−リングされると、改善されるはずである。これは、対外債務の支払額は大きく、またロシア資源の依存から脱却できない、そうした条件でも妥当な評価である。見通しは前向きである。

 

ロシア:新旧の流れ

ロシアの評価にはきわめて特異なものがある。クレムリンと地方や経済界の有力者間に若干の意見の食い違いがあるにもかかわらず、この国に金融改革は最終的には前進しはじめた。しかしGDPの急激な伸び(2000年第一四半期7.5%)は、政府が競争力強化により一層目を向けないと、2001年は鈍化する可能性がある。石油輸出による高収入はル−ブルを支えているが、同時にインフレ到来の可能性も高めるものである。と言うのも、ロシア銀行はドル買いのため、多量のル−ブル増刷を余儀なくされているからである。金融市場は弱く、海外からの直接投資不足で苦しんでいる。

 

プ−チン大統領は国民の間では大変人気があり、国会議員大多数の支持があるので、彼の改革は順調に前進すると期待できる。地方有力者のわがままは、大幅に減少し、また経済活動は徐々に通常のビジネス行為の枠組みに入りつつある。

 

政府経済方針の基本は全体として前向きに評価することができる。とは言え、そこではかなりの部分、税制に力点がおかれ、今のところ構造改革や競争力育成にはさほど注意を払っていない。国有財産を民間に譲渡するプロセスにも然るべき目が向けられていない。大々的な民営化プロセスは2001年以降に本格的段階に入るかもしれない。

 

すでに触れた点だが、2000年度第一四半期、ロシアのGDP7.5%成長し、工業生産高は今年8ヶ月間10%の伸びである。ロシア国家予算は輸出により大幅な税収の伸びとなった。またロシアの産業は19988月危機後の平価切下げによっても一定の利益を得た。

 

輸出高はGDP40%まで伸び、その中燃料と金属が輸出品の三分の二を占めている。しかし、ロシアは来年度これら伝統輸出品の価格が下落するおそれがあるので警戒すべきである。これは2001年ロシアにとって、最も悪いニュ−スとなるかもしれない。

 

内需構造を分析しても、若干の問題が目にはいる。2000年当初から国内消費は若干伸びたが、今日にいたってもこの伸びは国民の実質所得が低いことにより、きわめて低いものである。

 

もっとも、我々の予想通り、2000年度第二四半期のGDP伸びが鈍化したにもかかわらず、

今年全体では6.5%まで達する可能性がある。

 

ロシア政府は2001年度国家予算をGDP成長評価を控えめ、つまり歳入伸びを4%として組んでいる。これでもかなり楽観的シナリオだが、原料価格があまり急激に下落せず、政府が構造改革の実行に着手し、競争力を高めるのであれば、可能である。

 

1998年末に著しく低下したロシアの輸入は、完全には回復していない。反対に輸出は貿易黒字が月間50億ドルになるほど伸びた。資源輸出による収入のピ−クは既に過ぎたが、2000年全体ではこの数値は500億ドルを超える可能性がある。

 

だが警告信号も出ている。ロシア経済にたいする外国投資はGDPのたった1%にすぎない。さらに輸出収入の伸びで、パリ銀行債権団の債権国が400億ドルと見られるロシアにたいする自分たちの要求をどうやらあまり放棄しようとはしていない。

 

けれでも債務のリスケジュ−リングの見込みはいずれにしても存在する。ロシアのユ−ロ債券市場で見られる傾向からすると、ロシアの支払い能力評価は明らかに改善されている。さらに債務リスケジュ−リング合意の正式の前提条件となるのが、IMFの新プログラムであるが、それは年末と見られる。

 

ロシアのル−ブルをあまりにも大きな輸出収入の影響から保護するため、ロシア銀行は2000年上半期始めからル−ブルの大量売却を余儀なくされている。通貨量の拡大は、中央銀行預金の金利を一層引き上げることで、部分的に無毒化してきた。だが通貨量の伸びは昨年同期と比較し、60%まで急進してしまった。

 

と言ってもインフレ懸念をあまり大げさにあつかう必要はないだろう。その理由は、ロシア経済はまだ必要量の通貨が流通していないからだ。しかし我々の予想どおり、現在進行している賃金や光熱費の上昇は2001年末までインフレ水準を年間20%としてしまう。

 

ロシアの状況を検討する場合特に目を向ける必要があるのは、地方政府が真っ先に実施する予定である銀行システムの改革である。これは2000年末の行われるはずである。ロシアの現在の銀行機関(全部で約1330行)の大半はまだ十分な資本を保有していないか、それとも意図的な倒産者である。2000年第一四半期、ロシアの各銀行による投資は、たった2060億ル−ブル、つまり90億ドルである。

 

ル−ブルレ−トに関しても、若干の懸念が出ている。ロシア中央銀行が大量の外貨買付けしているにもかかわらず、20002月からル−ブルは9%高くなり、国のインフレ進行と一致していない。その結果、ル−ブルの実質レ−トが1998年中頃の水準よりまだ30%も低いにもかかわらず、19988月危機後獲得したロシア経済の競争力が次第に消えている。

 

資源価格の急騰は国家予算の税収を大幅に増やすこととなった。さらに国庫歳出の削減により、社会保障費や軍事費が上昇したにもかかわらず、2000年度上半期の否定的な傾向を生まずにすんだ。7月、国会は税制改革の基本要領に賛成した。これは所得税率を一律13、賃金積立て金にたいし36.5%、若干の間接税の増設等の内容である。

 

こうした措置は必要ではあるが、ロシアの状況を改善する上で他の改革によっても補完する必要がある。こうした措置では脱税を抑止し、生産成長にさらなる刺激を与えるには不十分である。逆に言える事といえば、税制改革により国庫収入が一時的に若干落ち込むことぐらいである。

 

2000年度上半期、ロシア国債の価格は国家の支払い収支の改善や、財政健全化によるだけでなく、ロンドン銀行債券団にたいするロシア債務のリスケジュ−リングにもより、利益をもたらした。20002月に締結された協定は最近、実行された。旧債務3000億ドルは180億ユ−ロ債に切り替えられた。ユ−ロ債市場にとって否定的なニュ−スが出るとすれば、ロシアの内政、パリ銀行債券団との交渉問題あるいは資源価格の下落から発生するだろう。

 

今後数ヶ月、ル−ブルによるロシア国債の市場は中央銀行にたいする政府債務償却交渉と外国人にたいする市場開放により活発化するかもしれない。社債市場については、1999年第四四半期と2000年第一四半期の大幅な成長後、相場は国際証券市場からの否定的ニュ−スや、外国人株主にたいする権利制限、経営にたいする行政の圧力により、下落した。ところがロシアの有価証券はあいかわらず過小評価されたままである。

 

ロシアのリスク

ここで述べたロシア状況全体をまとめると、次の結論となる。近々の中はル−ブル相場はきわめて安定した状態が続くことは明らかである。だが中期的に見ると、インフレリスクが国内支出を増やし、国内通貨を弱くする可能性がある。しかしこれはロシア国内産業には都合のよいことで、それは輸入力が弱まるからである。

 

またロシアの融資格付けは、それでもやは輸出による大幅収入増と財政改革により上げるべきである。と言っても国内経済はまだ商品価格変動の影響を受けやすいし、着手した改革でよりよくなることを期待せざるえない。

 

 

116

-ロシア連邦保安局中佐、西側亡命申請-(完)

(イズヴェスチヤ、113日、エフイゲニ・クルチコフ、ヴィクトル・アヴェルブフ)

111日、ロンドンヒ−スロ-空港で急遽記者会見をした元ロシア連邦保安局諜報中佐、アレクサンドル・リトヴィネンコは、英国に政治亡命すると発言した。家族と共にヒ−スロ−空港に到着したリトヴィネンコによると、こうした行動はロシア特務機関の執拗な追跡により余儀なくされたらしい。しかしながら、どうやってリトヴィネンコはロシアを脱出できたのか、不可解である。と言うのも彼はいくつかの件で刑事告訴されていたし、外出禁止の誓約書までとられていたからだ。現在彼はインタ−ポ−ルから指名手配されているので、ロシアに返還されるかもしれない。リトヴィネンコ本人は、英国政府関係者が彼をロシアには引き渡さないと確約していると主張している。

 

軍事最高検調査局責任者ヴィクトル・シェインによると、アレクダンドル・リトヴィネンコ訴訟問題はすでにヤロスラ−ヴリ軍事裁判所の手に委ねられている。

−彼には同時に刑法の四つの罪状で起訴されている。「武器使用をともなう公務権限の逸脱」「公文書偽造」「武器・弾薬・爆発物・爆破装置の横領または強要」「武器・弾薬・爆発物・爆破装置の違法入手、譲渡、販売、保管、輸送または携帯」であると、本紙に裁判長スタニスラフ・ラピンは述べた。「ごらんの通り、罪状はきわめて重いものです。強制措置としては、外出禁止の誓約書が選択されました。しかし、我々はリトヴィネンコのパスポ−トは押収できませでした。それで彼は本物の書類で国外に出ることができたわけです。」 問題は何故に連邦保安局が中佐のものとにパスポ−トを残しておいたのか、そこにあります。

 

リトヴィネンコ起訴内容はこうだ。1997年、リトヴィネンコ中佐とその部下は、何人もの地方有力企業家が死亡したコストロマ市の一連のテロ事件を捜査するはずであった。調査結果からすると、リトヴィネンコは事件を解明し、どうやら爆発物を売買しているグル−プを突き止めたらしい。ところがリトヴィネンコは(調査資料によると)合法的なやり方で事件を捜査するかわりに、容疑者に爆発物を投げつけ、その後で形式的に彼らを逮捕している。容疑者を市の郊外に連行し、必要な供述をうるために殴打し、拷問した。こうしたことにより中佐とその部下は刑法に抵触したのである。

 

強調するが、これは事件の公式的側面にすぎない。アレクダンドル・リトヴィネンコはいわゆるボリス・ベレゾフスキ−殺害をめぐる有名なスキャンダルの最大のキ−パ−ソンなのである。リトヴィネンコはどうらや、直属の上司、つまり連邦保安局の犯罪組織活動研究・抑止局長、陸軍少将エフゲニ・ホホリコフと次長陸軍大佐アレクサンドル・カムイシニコフからボリス・ベレゾフスキ−殺害の指令を受けていたらしい。リトヴィネンコはどうもこれを放棄したらしく、犯罪組織活動研究・抑止局の計画をベレゾフスキ−に伝えたらしい。その後、リトヴィネンコの運命は新興財閥の運命と切ってもきれない関係になった。まさにリトヴィネンコはピストルで脅して、ウラジスラフ・リスチエフ殺害事件捜査に現れた内務省捜査班をベレゾフスキ−の執務室に監禁したのである。19981117日、リトヴィネンコとその仲間(陸軍中佐アレクサンドル・グスイク、陸軍中佐ミハイル・トレパシキン、陸軍少佐アンドレイ・ポニキン)は通信社インタ−ファックスの事務所で異例の記者会見をし、そこでベレゾフスキ−殺害の他に、別の同様な任務、例えば企業家ウマル・ジャブライロフの実弟の誘拐命令を受けたと主張した。

 

その後、リトヴィネンコは独立国家事務局(当時ベレゾフスキ−が事務局長をしていた)安全問題部顧問として勤務し、そして職務権限逸脱で逮捕された。19991126日、彼は軍事法廷で無罪となったが、そのまま法廷においてコストロマ事件で拘留された。

 

現在軍事最高検はヤロスラ−ヴリ軍事裁判所にリトヴィネンコが本人の住所に在宅しているか、調査を求めた照会状を送った。彼が今英国にいることは明らかであるが、裁判長は本紙にたいし、「我々は法に則り行動する。リトヴィネンコにたいし国際指名手配する。英国はインタ−ポ−ル機構に加盟しているので、彼をそこで逮捕できるし、ロシアに送還することができる」と述べた。

 

もっとも、調査結果からするとリトヴィネンコは111日よりもっと以前にロシアを出国したと推測される。司法筋が本紙に語ったところによると、連邦保安局は二週間以上前から検察庁に電話をよこし、「そちらで出国許可を出していませんか」と問い合わせている。我々の取材から判断すると、リトヴィネンコがロンドンに突然現れるまで、誰も彼がどの潜伏したのか知らなかったらしい。

 

その上、彼は正規の書類で国外に飛び立っている。ショレメ−チュヴォ空港の出入国管理局職員は111日、偽造文書では誰も逮捕していない。

 

「ロシアから出国する外国人のチェックは我々ではなく、連邦保安局が行っているが、ロシア人の出国はチェックしていない。我々はただ書類の真偽をチェックするだけである」と、モスクワ出入国管理部責任者ウラジ−ミル・クルイサノフは述べた。

 

リトヴィネンコは出国できない国民として指名されていたのか、という本紙の質問にたいし、彼は「リトヴィネンコが飛行機で出国したのであれば、その書類には問題がなかったはずである。出国者をチェックし、その中から具体的にアレクダンドル・リトヴィネンコを探し出せという指示は私は受けていない」と述べている。

 

状況の不可解な重なり合いが目を引く。ヒ−スロ-空港ビジネスセンタ−でリトヴィネンコが記者会見する数時間前、ロシア検事副総長ワシリイ・コルモゴロフは、1113日にボリス・ベレゾフスキ−とウラジ−ミル・グシンスキ−を起訴すると声明を出した。最高検2のこの声明は、公式の警告に等しいものである。「もしまだ準備ができていないのであれば、二週間後貴殿のところに私のほうから赴き、貴殿を逮捕しますと通知しておく」 読者の中、誰かこうした訪問を待つ用意がありますか。

 

こうした状況全体の流れからすると、錯綜している感がする。連邦保安局は本当に、アレクサンドル・リトヴィネンコのパスポ−ト押収を忘れたのだろうか。ロシア最高検は本当に、ベレゾフスキ−とグシンスキ−を起訴する気でいるのだろうか。出入国管理局は本当に、ロシアを出国する人間の中からリトヴィネンコをチェックしなかったのだろうか。無論のこと、例えば、ウクライナにも出国できたし、その後でバスでハンガリ−に出て、ブタペストから飛行機でロンドンに飛び立つこともできたわけだ。

 

モスクワの英国大使館広報官マイケル・ヘドックが本紙に語ったところによると、アレクサンドル・リトヴィネンコが英国に政治亡命を申し出ていることには、何も知らないとしている。「我々が知っていることはだだ一つ、この人間が実際にロンドンに到着したことだけです」と同報道官は述べている。ロンドンのロシア大使館はこの件にはノ−コメントであった。ちなみに、ロンドンにプ−チン大統領が訪問した後、露英間に諜報活動に関する特別協定が存在するが、その内容は極秘とされている。

 

 

113

“原潜クルスク号事故原因、おそらく確定している”(完)

-ただし、事故原因はきわめて一部の幹部のみ把握している-

(独立新聞、1026日、ミハイル・ホダレノク)

社会は原潜クルスク号タ−ビン班責任者、海軍大尉ドミトリ・コレスニコフの死直前のメモを知ることとなった。「...1315全員、6号室、7号室、8号室から9号室に移動した。ここには23名いた。我々は事故によりこの決断をした。我々の誰しも、海上に出られないかもしれない....」 この悲劇の文書はそれまでの多くの説を打ち消すばかりか、すでに人々の考えに定着した事故経緯そのものまで覆すものである。

 

一方米国のデ−タによると、爆発は8121128分に起きていることになる。これは米国、英国、ノルウエ−各海軍と事故現場から279マイルに設置された地震観測所で確認されている。ロシア北方艦隊の演習を三隻の潜水艦と二隻の電子哨戒艇「ロイアル」と「マリヤタ」が監視していた。最初の爆発から136秒後、はるかに大きな第二回目の爆発が起きた。地震計のデ−タによると、この爆発力はTNT火薬47トンにあたる。当時二隻の米国潜水艦「メムフィス」と「トレド」は北方艦隊演習海域にいて、浮上しようとする乗組員の絶望的な試みを確認している。その後唯一確認された音(これもまた米国潜水艦音響機器のデ−タだが)潜水艦が海底に向かっている時の胴体部のきしむ音である。第一回爆発から240秒後に、戦慄する轟音とともに潜水艦が海底に衝突したことが確認されている。そして潜水艦船体外部に長さ約150mの縦条が発見された。

 

ロシア政府関係者は事故経過の推測に関し完全に沈黙するか、それとも全く異なる事故の経過を示した。特に8122344分爆発、813451分海底でクルスク号発見、813715分国防大臣イゴリ・セルゲエエフ、プ−チン大統領に事故について報告となっていた。

 

海軍大尉ドミトリ・コレスニコフのメモによると、米国のデ−タはより信頼性があるように思われ、同乗組員の死直前のメモと全体としては一致している。そこで早くも決定的となったことは、ロシア政府筋が事故についてきわめて疑わしい情報を出していたことである。それでも、ドミトリ・コレスニコフのモメの多くは考え込ませるものである。

 

第一に頭に浮かぶことは、社会に公表されたメモ文面はまったく完全なものではないことである。おそらく、これはほんの一部にすぎず、その上最も少ない個所かもしれない。これはたんなる憶測だが、けして妻に宛てた乗組員のきわめて個人的なメッセ−ジではないと、思い切って断定するとしよう。このロシアの海兵ははっきと明確に達筆と言っていいほど筆跡で書いているし、それは事故後の不運の時間の中できわめて冷静であり、その精神力を物語っている。それ故、間違いなく彼は「全員が6号室、7号室、8号室から9号室に移動した」という下りからこのメモを書き始めていないはずである。どう見ても、この海軍士官はそれがかなり簡潔なものであるにせよ、一回目の爆発後カウントダウンが始まったその短い期間に潜水艦で起きた一部始終を書き記そうとした可能性が高い。おそらく当時まだ船内通信装置(拡声器)は機能していだだろうから、何らかの指示があり、乗組員に事故状況が伝えられ、各室からの報告があったに違いない。かなり高い確率で言えることは、こうしたことが全てドミトリ・コレスニコフのメモに記載されていた可能性がある。いずれにしても、このメモは公表された下りからは明に始まっていないだろう。これはきわめて首尾一貫しているテキストから抜き出した断片という印象がある。このようにメモに書かれている何かは、既に事故原因の定説となっているものを大きく打ち消す公算が高い。

 

仮にメモが若干とは言え、この原潜が仮想の潜水物体と衝突した事実を確認するものであると、このデ-タはどう考えても、直ちにマスコミの公表されたはずである。わが国潜水艦と外国潜水艦の衝突は、海軍首脳部がきわめて信じたい説なのである。この説はとても都合のよいもので、ロシア海軍の将軍たちにとって多くのことを適当に処理できる。それとともに、事故後二ヵ月半、同原潜と他の潜水艦が衝突したという、たとえ間接的な証拠さえも見つかっていない。こうした痕跡はクルスク号の船体にも、事故海域の海底にも発見されていない。ちなみに最近発見されたクルスク号軽量胴体部の原因不明のわずかな凹みでさえ、原潜クルスク号の沈没は仮想潜水艦の直撃によるもとだと、80%確信していると、海軍総司令官ウラジ−ミル・クロエドフがあらためて主張する根拠としている。

 

米国と英国(ついでだが、両国とも救援活動の支援を申し入れていた)はすかさず、自国の潜水艦が事故に関与した可能性を否定した。無論、基地に停泊している自国原潜(特にトレド)に外観を見せることを拒んだことはきわめて不審を抱かせるものだが、しかしこのことはまだ何をも意味するものではない。第一にこうした行為は主権国家の権利であるし、第二にこうした事故については全ての海軍将兵は承知しているし、起こさないほうがよいにきまっている。事故直後米国のCIA長官が密かにモスクワを訪れたことや、プ-チン大統領とクリントン大統領の電話会談があり、多くのものが不審を抱いているが、現在の軍事・政治状況で両国首脳の謀議を推測することや、この仮説に米国大統領選の日程を重ねたとしても、それはかなり気持ちの高まった空想と思われる。こうしたことから、118日という副首相イリヤ・クレバノフが中心となっている政府委員会の調査結果発表の日付でさえ、多くのものは遠い米国の大統領選とほぼ直接関係あると見なしている。ところがイリヤ・クレバノフの委員会の会議が118日に行われないかもしれない。と言うのもクルスク号の作業はまだ完了していないし、新たな状況が生まれるとも限らない(特に他の文書の発見、例えばメモ、航海日誌等)。

 

わが国原潜沈没の最大の原因は実際、評論家の多くの有望な説より味も素っ気もないものかもしれないし、はるかに戦慄のはしるものかもしれない。真実の大部分は疑うまでも無く、わが国と海軍の首脳部にはすでに明らかになっている。

 

 

ペイジトップに行く