阿修羅System for inspiration

耳をすませば

©1995 柊あおい/集英社・二馬力・TNHG
更新日1997年5月26日 
©阿修羅 ashura@racer.biglobe.ne.jp.ANTISPAM

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「耳をすませば」と言う映画

 この映画の良さってなんだろう、そう聞かれて、ここがいいんだとはっきり答えるのは難しい。特別変わった舞台でも設定でも無い、ごく普通のニュータウンでごく普通の、ちょっと感受性の豊かな中学生の女の子が、自分の思ってもみないこと−−高校へ行かずバイオリン作りの職人になる−−を目的に既に見据えている男の子、に出会い、惹かれていく………つまり恋物語だ。
 これだけならはっきり言ってただの少女漫画か、あるいはその辺でやっている恋愛物のドラマだが(実際原作は〈ちょっと毛色の変った〉少女漫画)、この作品はそうではない。日常を徹底的にリアルに描き、あくまで彼女らはその中に生きる現代の中学生、なのだ。
 限りなく現実の街に近い生活感のある舞台で、何も特別でない彼女らは、受験の事や友達の事で悩みながらも、互いに相手の生きる様に惹かれあう。一生懸命に今の自分を考え、人を想う事の素晴らしさを、非常に純粋な形で描き上げている。
 また、この作品の舞台はただリアルなだけではない。とかくアスファルトとコンクリートと、人工的に作られた無機的な物、と言うイメージで否定的に見られがちなニュータウンを、じっくりと今の世代の視点から眺め、そこに見出せる美しさと郷愁を描き出している。確かに、そこで生まれて育った者(筆者もそう)にしてみれば、この人工の街が故郷であり、そこにこそ懐かしさを感じるものだろう。
 こうした物語の舞台の現実感と、同時にリアルに描かれているからこそ感じられる郷愁と美しさに、見ている我々は自身の思い出を知らず知らずのうちにシンクロさせ、また特別でない彼女等の真摯で純粋でストレートな様に、それに対して今の自分はと、考えさせられるのだろう。
 この映画は見ているすぐには、さらさらと流れていってしまう程に、涼やかに物語が流れていく。しかし、見終えた後で、カントリーロードのメロディーを口ずさみながら物語を思い出してみよう。その時初めて、この映画の本質が見えてくるのではないか、そう思う。

1996/ 9/ 8
1996/ 9/13 加筆修正  by 阿修羅

追記
 この作品はBGM一曲が複数のシーンに渡って切れ目無く流れています。流れる様な感覚を憶えるのはこの為でもあるでしょう。イメージ的には映画全体が組曲になっている様な感覚ですね。





アリスのイメージ

 幼い頃、ニュータウンに住んでいた人もやはり、田舎の子供と同じ様に探検をした事があったり、隣の街が異世界に見えたりした経験が、一度や二度はあると思う。バスや電車に乗って30分もすればそこは普段の生活圏ではなくなっている、或いは遠くに行かなくとも、すぐ近くに自分が行った事の無い場所があった、等々。
 そうして「自分の街」の中に面白さを見付け、新鮮さを自ら生み出す事を、誰に教えられるともなく知っていた、そんな頃。思い出してみる、その時に自分が見ていた街の景色を。すると、今自分が見ている街と、その時自分が見ていた街は、どの位同じに見えるだろうか。
 周りをゆっくり観察する余裕、ちょっとした変化を敏感に捉えられる感覚、どんな物の中にも素晴らしいと思えるものを見付け出せる純粋さ。街が変わったのではない、自分が変わったのだ。そう、思い至らないだろうか。
 耳をすませばで、雫が猫を追っていくシーンがある。まず電車に乗っている猫に声をかけると言う所からして、普通の女の子ではないかもしれない。そしてその猫を追って、知らない裏路地を駆けていく。ついて行った先は自分の全然知らない場所。いつも来ている図書館の近くの筈なのに。
 そこで猫が入っていった家に入っていく。見るとアンティークショップだ。柔らかでどことなくファンタスティックな家具調度が並んでいる。ずっと眺めていると猫の人形がある。君はさっきの猫君? 思わず声をかける。すると人形が微笑む。
 カタリと音がして振り向くと店の主人のおじいさんが顔を出す。それから優しくやってきて時計を直し始める。その時計には素敵な仕掛けがしてあった。そして甘くて切ない思いが込められている事を教えて貰った。
 時計の針がカチリと12時1分を指し、ようやくはっとして時間が経っている事に気づく。慌ただしく自分が何をしに来たのか思い出し、夢から覚めた様に坂を駆けていく。そして元の世界と今の場所とを繋いでいるかの様な高低差の大きい長い階段を、嬉しさに弾みながら駆け降りていく………
 素敵な体験がしたい、と言うのは誰だって同じだと思う。でも、それを見付け出す気持ちを無くしたら、どうがんばっても無駄な気がする。一生懸命に澄んだ目で自分の周りを見つめているから、きっと雫の様な、アリスの様な経験も出来るのだろうか。

1996/9/9  by 阿修羅




徒然に感想

 構えずに思った事なんかを書いておきます。


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