Nstar's Laboratory - NATURE PHOTO -
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★" Star Watching   −50mm双眼鏡−

 

Nikon WX 10x50 IF
    + modified ORION Paragon-Plus Binocular Mount


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ニコン WX 10x50 IF, 2017年発売 (made in Japan)
口径:50mm, 倍率:10倍, 実視界:9.0度, 重量:2.505kg
メーカーのウェブサイト: ニコン
オライオン パラゴンプラス双眼鏡マウント(改) (耐荷重:2.5kg, 重量:5.7kg)
メーカーのウェブサイト: ORION

ニコンが創立100周年記念で販売を開始した超広視界双眼鏡。 光学技術の粋を結集し、旧表示で90度もの超広視界を達成した驚異的な双眼鏡。 片側鏡筒だけで3枚のEDガラスや最高精度のアッベケーニッヒプリズムを使うなど、光学性能には妥協することなく高価な光学部材が惜しみなく投入されているので、口径50mmの双眼鏡にしては価格も驚異的だ。 発売されたときは購入を躊躇し、しばらく考えることにした。

何はともあれ、実機を見てみないことには始まらない。 ところが地方都市に住んでいると、なかなか実機にお目にかかる機会がない。 出張で赴いた地にニコンプラザがあるのを思い出し訪ねてみたが、残念なことに7x50モデルしか置いてなかった。 しかし、その地に数日滞在する予定であることを話すと、なんとその間に銀座から取り寄せてくれた (ありがとうございました)。 実機をそこで初めて覗いたときの印象だが、視野の広さについては (室内の暗めの場所で試したせいなのか、あるいは緊張してしまったせいなのか) 不思議とあまり驚かなかった (注1)。 ところがその後、他の双眼鏡を覗いて驚嘆した。 それまで視野が広いと感じていた広角機 (旧表示で見掛視界65度ほど) の視野が、酷く窮屈に感じられるのだ。 WX 10x50 の良像範囲は超広角の視野全体にも及び、双眼鏡を覗いているという感覚が極端に少ない。 そして一度これを覗いてしまうと、『視野とは本来こういうもの』と頭が (脳が?) 覚醒してしまい、従来の広角機の見掛視界や周辺像に酷く違和感を覚えるようになってしまうのだろうか。 大袈裟な言い方をすれば、WX 10x50 は肉眼をドーピングし倍率だけが10倍になったかのような見え方をする。 これは凄いことだ。

注1: その後購入し、ファーストライトで自宅から近くの山肌を見たときは、その視野の広さと視野の隅々まで広がるシャープな木々の模様に、まさしく圧倒された。

話が戻るが、購入を躊躇した理由がもう一つあった。 星見用にポロプリズムの 10x50 双眼鏡を既に持っていたが、大型双眼鏡と比べ稼働率がそれ程高くなかったからだ。 10倍という倍率が天体には低すぎるのか? あるいは操作性の問題か? 実際、手持ちは (どんなに軽い機材でも) 長時間の星見には向いてないし (というか個人的に手持ちでの星見はあまり好きではない)、ビデオ雲台に載せても鏡筒が短いが故に接眼部が覗き込み難い。 むしろ、28x110 のように大型で鏡筒が長い方が、接眼部が三脚の外側に張り出すので使いやすくなる。 倍率はともかく、WXを購入するのは専用架台の目処を付けてからにすることにした。

操作性の良い双眼鏡架台の条件は

  1. 双眼鏡の真下に体を置いて天頂方向を見れること
  2. 首の動きや体勢の変化に合わせて双眼鏡の高さが変えられること
  3. 立ち位置 (座り位置) をあまり変えずに広範囲の星空を見れること
  4. 各部の動きがフリーストップであること
と言ったところだろうが、これら全ての条件を満たし得るのは、やはりパラレログラム架台だろう。 平行四辺形 (parallelogram) に組んだフレームを使い、双眼鏡の向きを変えることなく双眼鏡の高さを変えることができる架台で、P-マウントなどとも呼ばれるものだ (ビデオ撮影で用いられるジブアームも同じ構造)。

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オライオンのパラゴンプラス双眼鏡架台 (右上写真) は中小型双眼鏡用のP-マウントで、アーム先端部の三脚アダプターのようなL字部品に双眼鏡を固定し、L字部品の回転で仰角を変える仕組みになっている。 しかし、この方式だと双眼鏡を平行四辺形の面内にしか向けることができない。 つまり、方位角を変えるにはP-マウントの三脚取り付け部の方位回転軸を回転させるしかなく、このとき長いアームに沿って人も移動せざるを得ない。 回転軸が3個しかないこのような方式では、思ったほど自由に双眼鏡を振り回せないのだ。 それに、設置状況を想像すれば分かるが、ビーチベッドに寝そべって使うこともできない。 もっと大型のP-マウント (例えば Orion Monster parallelogram mount) では、アームとL字ブラケットの間に方位回転軸 (ヒンジ) と高度回転軸が設けられ全部で4軸になっているが、ヒンジの回転角は180度弱に制限されるし、口径50mmの双眼鏡には大袈裟すぎる。

そこで、パラゴンプラスのL字部品は回転しないように固定してしまい、そこにビデオ雲台を載せて4軸化することにした (右下写真)。 ビデオ雲台なら360度方位回転させられるし、双眼鏡部分に方位回転軸があるので、回転に伴う人の移動も最小で済む。 仰角の動きについては、もっぱらビデオ雲台の性能に頼ることになるが、良いビデオ雲台さえあれば、この方式が理想的だろう。 載せたビデオ雲台は GITZO の G2180 だ。 カウンターバランスを -2.5kgから+2.5kgまで7段階で切り替えられるので、概ねどの中小型双眼鏡でもフリーストップにするだけの能力がある (ただしスプリングの基準点をずらすだけの簡易バランスで、仰角方向にカウンターを効かせた場合、俯角方向はカウンターならぬエンハンスドになってしまうので注意が必要)。 しかも570gと軽量なので、P-マウントのカウンターウェイトも少なくて済む。 クイックシューで簡単に双眼鏡を載せ替えられるし、異なる双眼鏡へ載せ替えたときも (面倒な重心位置の調整は必要なく) カウンターバランスを調整するだけで済む。 パン棒はスペアパーツを入手し、思いっきり短縮してしまった (右下写真)。

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また、バランスウェイト・シャフトは、オリジナルより20cm長い50cmのロングシャフトに交換した。 ステンレス丸棒を小口切り売りしている所で両端にネジ加工をして貰ったものだ。 右写真の左上はオリジナルのシャフトを、左下がロングシャフトを伸ばし切ったところ。 標準のカウンターウェイト (3.6kg) のままの場合、オリジナルシャフトでは約1.4kgの双眼鏡 (G2180込みで約2kg) までしかバランスさせられなかったが、ロングシャフトだと約2.7kgの双眼鏡までバランスさせられ、WXも載せられるようになった。 このP-マウントはシャフトが格納でき (右写真の右側)、90cm弱とコンパクトな長さにできるのが良い。

重量級の WX 10x50 を載せた場合、厳しく見ればやや剛性不足なのは否めないが、水平方向から天頂方向まで快適に観望が可能だ。 使ってみて分かったことだが、方位回転軸が2箇所あることで、(同一被写体に対し) 多少なりとも双眼鏡を水平方向にも移動できるようになる。 上下方向の自由度は当然として、この水平方向の自由度も意外と重要で、これにより天頂方向を見るときの姿勢に多少なりとも余裕が生まれる。 その結果、自然体で星空を仰ぎ見ている目の前に双眼鏡の方を持って来るという理想的な操作が (ある程度) 可能になるのだ。 また、双眼鏡の高さ・仰角・方位角の全ての動きがフリーストップになっていることで、この双眼鏡の売りである『星空を遊泳している感覚』が倍加されるように思う。

実際に星空を見た感じだが、この双眼鏡の凄い解放感には何度見ても圧倒される。 超広視野の最周辺までピンポイントの星々が散らばっている様は、まさに圧巻だ。 この解放感は、まるで肉眼で仰ぎ見ている星空のようだが、それでいて10倍に拡大されているので、見たことのない異次元の光景にも感じられる。 これほどの超広視野の双眼鏡は、やはり肉眼ドーピング・デバイス的であり、その特性を活かす為にも、対空型ではなく直視型で良いのだと個人的には思う。 ただそれ故に、じっくり堪能するには良い架台が有ると良い。 もちろん、(4軸の) パラレログラム架台は、WX 10x50に限らず全ての直視双眼鏡にもおすすめだ。 楽しすぎて直視双眼鏡の稼働率が飛躍的に上がること間違いない。

ベランダで星見するときは、20x120 大型双眼鏡を軸に、32x82 対空双眼鏡を高倍率用、そしてこの 10x50 双眼鏡を低倍率用とし、3台を並べて観望するスタイルが気に入っている。 それぞれ 1983年、2000年、2017年の発売で、面白いことにちょうど17年間隔だ。 次は何が出てくるのだろう…


追記 (2019/05)

新型の三脚アダプター TRA-5 がアナウンスされた。 WX双眼鏡の標準付属品の記載も TRA-5 に変わっているので、これまでの TRA-4 は置き換えられるのだろう (カタログはもちろん、WX双眼鏡スペシャルサイトの写真まで全て TRA-5 に替わっている)。 TRA-4 との違いは、形状が変更された、WX双眼鏡だけでなく7x50SPや18x70IFなどでも公式に使えるようになった、重量が210gから333gへと重くなった等だ。 TRA-4 の方が格好は良いが、おそらく TRA-5 の方が持ちやすいだろう。 それと、概要に『振動に強く』とわざわざ書いてあるくらいだから、TRA-4の弱点だった剛性不足は解消されるのだろう。


追記 (2020/01)

品切れでなかなか入手できずにいた新型の三脚アダプター TRA-5 を、ようやく入手した。 剛性不足は確かに解消されていた。 旧 TRA-4 で P-マウントを急激に動かすと、TRA-4の剛性不足で発生した振動が P-マウントの長いアームと共振し、不快な振動が持続してしまうことがあったが、それが完全に解消され、気持ち良い宇宙遊泳を味わえるようになった。


追記 (2021/01)

せっかくの超高性能双眼鏡に、像の劣化を招くテレコンバーターを付けて使うなど邪道である。 それは百も承知している。 しかし、もし見掛視界90度の超広視界はそのままに、別の倍率が出せるようになるとしたら? 実は、掲示板のこのスレッドに触発され、10x50 WX にフロント・テレコンバーターを付けたらどうなるか試してみたくなった。

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右上と右中写真は、割と評判の良い OLYMPUS の1.7倍テレコン TCON-17X (既に販売終了) を取り付けたところ。 TCON-17X の取り付けネジは55mmなので、WXのフィルターネジにそのまま装着できる。 最大径は80.9mmもあるので、装着すると迫力ある外観だ (格好は?だが)。 幸い、WXはアッベケーニッヒプリズム部で光軸のオフセットがあるので、これだけの外径があるテレコンを装着しても、目幅は63mm程度まで狭められる。 この大きさは伊達ではない。 十分な大きさのフロントテレコンはカメラレンズのF値を変えない=有効径を大きくする。 実際、TCON-17X を付けた 10x50 WX の有効径は実測で56mmある。 視野のケラレは全くなく、見掛視界は90度 (旧表示) そのままだ。 つまり、TCON-17X を 10x50 WX に装着しただけで、17x56 実視界5.3度の超広視界双眼鏡になるのである。

肝心の光学性能だが、次の追記の通りなかなかのものだ。 元の性能が良いと、テレコンを使っても結構な性能が出せるという見本のような結果になった。 『一粒で二度美味しい』超広視界双眼鏡の出来上がりだ。 ただし、フロントテレコンは、それ自体のディオプトリのバラつきが大きいようなので (私が試した中にも、問題なく使えたものの 6dp 近く違っているものもあった)、試すのなら自己責任で!

ちなみに、TCON-17X の前に、Nikon の1.5倍テレコン TC-E15ED も試している。 90度の超広視界はケラれなかったが、口径食を起こし実測で45mmの有効径になってしまった。 それで、もっと大型のテレコンを試してみた次第だ。 大型の1.7倍テレコンなら、Nikon にも TC-E17ED (既に販売終了) がある。 2枚ものEDレンズを使用し、『究極』とか『幻』とか呼ばれるテレコンで、まさに WX に装着するに相応しそうなテレコンなのだが、残念ながら外径が88mmと太く、私の目幅には合わせられないので断念した。 TC-E17EDをWX用に少しスリムにしたテレコンを純正オプションとして用意してくれたら良いのに… まぁ、目幅やディオプトリのバラつきなどの問題があって難しいのかな。


追記 (2021/02)

17x56 の光学性能を同倍率クラスの機材と簡単に比較してみた。 同口径クラスの M5 16x56 の光学性能では太刀打ちできないので、別口径クラスの HIGHLANDER PROMINAR に PO 24mm 改造アイピースを装着した 19x82 と比較した。 それぞれのスペックをまとめると

機材倍率x口径 実視界  見掛視界 瞳径
10x50WX + TCON-17X17x565.3度90度3.3mm
HIGHLANDER + PO24mm改19x823.1度60度程4.4mm

※ テレコンを付けたり非純正改造アイピースだったりと、どちらも純正状態ではないので、以下の性能比較は本来の機材の光学性能と直接は関係ない。
ちなみに、45度対空型の 19x82 は N8ビデオ雲台に、直視型の 17x56 は G2180ビデオ雲台のパラレログラム架台に載せ、サイドバイサイドで比較した。 17x56 は 3kg を超え、G2180 のカウンタースプリングは悲鳴を上げていたが、何とか使えた。 どちらも天頂まで無理なく見ることができた。

19x82 はシリウスのように明るい星でもピュア・ホワイトだが、17x56 の方は極僅かながら赤系の色にじみが感じられた。 トラペジウムは 19x82 は割と明瞭に4つに分離するが、17x56 だと辛うじて4つに分離すると言ったところ。 倍率が違うのでこれだけでは何とも言えないが(トラペジウムの分離限界はこの辺の倍率だ)、微光星の集光ぐあいでシャープネスを判断すると、19x82 の方が気持ちシャープかなといったところ。 やはり、フロント・テレコンで無理やり倍率を上げている 17x56 の方が劣勢だが、テレコンでこれだけの性能が出るとは、むしろちょっと驚いた。

微光星はどちらも視野周辺までピンポイントで、特に見掛視界90度に微光星が広がる 17x56 の視野は圧巻だ。 しかし、さすがに口径 82mm と 56mm の威力の差は明らかで、散開星団などは極限等級の高い 19x82 の方が少し『奥深く』まで見える。 どちらが勝っているだろうか? 横の広がりを取るか奥行の深さを取るかの違いのようなもので、これはもう好みの問題としか言いようがない。

ただ、冬の星野を流していて感じたのは、(17x56よりも) テレコンなしの 10x50 の方が超広視界が活きているなということ。 17倍の高倍率ともなると、ターゲットは個々の星雲・星団になり、ターゲット部分を凝視していると超広視界の恩恵があまりない。 その点、10x50 は複数の天体が同一視野に入ることが多く、超広視界が面白いのだ。 ざっくりとした話、半天に主要ターゲット (大き目のメシエ天体や特徴的な星列など) が100個ほど散らばっているとすると、その1つを実視界 R [ラジアン] の視野のどこかに入れたとき、別のターゲットも同一視野に入る確率は

1 - (1-πR2/2π)99 ≒ 50R2
なので、実視界が R ≒ 1/√50 [ラジアン] ≒ 8度以上になると、高確率で複数のターゲットが同一視野に入るようになることが分かる。 もっとも、夏の天の川中心部やアンドロメダ銀河など、単体で巨大なターゲットもある訳で、一年は使ってみないと何とも言えないかな。

少なくとも、テレコンはWX双眼鏡の活躍範囲を広げてくれることは間違いない。 10倍と17倍の両方の倍率が出せるとなると、『これ 1 台だけでのんびりと星見』なんてのも楽しそうだ。


追記 (2021/04)

海外の掲示板でご常連のパワーユーザーの方 (kcl31氏) が、TC-E17EDを含め色々なテレコンの比較画像をこのスレッドで公開してくれた。 具体的にはこの画像だが、TCON-17Xがベストとのことだ (ACT-100とTCON17Xの2つの写りが悪いのは低空のためとのこと)。 結構、意外な結果で驚いた。 WX + TCON-17X は視野端まで星像は流れることなくピンポイント、シャープネスも十二分で、テレコンを付けても高性能双眼鏡として十分の性能だ。 実視界も約5.3度で間違いないようだ。


追記 (2021/12)

パラレログラム架台には GITZO G2180 ビデオ雲台を載せていた。 軽くてカウンターバランスが可変式なのは大変に良いのだが、上述の通り、スプリングの基準点をずらす簡易バランスなのが不満だった。 仰角方向でバランスを取ると俯角方向はエンハンスドになってしまうので、機材の「カックン」を防止するためにはクランプを強めに締めざるを得ず、滑らかな操作が難しくなってしまうのだ。

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そこで、Leofoto の BV-5 ビデオ雲台に変更した (右写真)。 重量は 528g と G2180 よりも軽量で、カウンターバランスは 3kg ある。 WX双眼鏡に対し、カウンターは概ね丁度良いか若干強いくらいで、高度80度以上になると少し戻されてしまうが、クランプを軽く締めれば止まるので問題ない。 カウンターは 3kg 固定でOFFにもできないので、小型双眼鏡に対しては強すぎるが、クランプを締めれば一応止まるし、このパラレログラム架台はWX専用になりつつあるので、これで良しとすることにした。

ラッキーなことに、G2180 用に作った超短縮パン棒はそのまま使うことができた (右写真)。 また、WX双眼鏡の対物筒には、厚紙とフェルトで作った夜露防止フードを装着してある (スライドさせてそのまま収納可)。


http://www2e.biglobe.ne.jp/~isizaka/nstar/
by Satoshi ISHIZAKA