8/2
大学の講座で同席した初対面のアメリカ人に「隣国人として香港の中国返還をどう思うか」という久々に高度な質問を受けた。「香港は中国なのであるから返還されて当然だが香港人には気の毒だ。これを機に中国が開放、民主化へ向かうことを望む」と平凡で優等生な答え方をした。この程度の会話なら困らなくなったのはやはり進歩。もうじき1年になるもんなあ。
彼女は珍しい知識人で外国人が英語を習得する困難さを知っており、1年でこれなら偉いと褒めてくれた。アメリカ人の多くは誰もが英語を話して当然という顔をする。
わりと多い電車トラブルネタ。帰りの電車が度々駅以外で止まり、遂には乗客全員別の電車に乗せ替えられた。ラジオ(駅-電車間の無線?)のトラブルとか。運賃を二重に取られなかっただけまし。アメリカではやりかねないと思うが車掌さん達は忙しくそれどころじゃなかった模様。途中から乗った人はタダで得した。
8/4
UPS(民間の郵便、宅配業者)で書留が届くというので一日待ったが来なかった。今までにも書留でもないのに不在票を置いて荷物を持って帰るなどのポカが時々あり、今度は配送し忘れかと怒っていたらどうもストらしい。今日の新聞に午前中の交渉決裂の場合スト予定と出ていた。会社側のコメントによれば緊急医療用品や生ものは幹部が配って歩く覚悟とか。
8/5
UPSはやっぱりストだった。今日の新聞の一面ほとんどがその話題。全米小包シェアの何と8割がUPSというので一大事のはずだが国民は意外と平静。ラジオでUPSの悪口の歌を流して笑ったり。70年代には13週間ストしたとか。去年の大リーグのも長かった。日本の「みせしめ」短時間ストとは違うのだ。この一般市民のストに対する寛容さは、店、公共機関の長蛇の列に並んで事務効率の悪さに文句を言わないのと似ている。ストする自由もあるという訳か。自由とリスクを併せ呑む潔さを日本人も見習わなくてはならない。しかしこれは多分諦めと慣れだと思う。私も自分の荷物さえ届けば文句はないが、計3種類の小包が留まっているような気がする。
8/6
ブロードウェイで「スモーキー・ジョーズ・カフェ」を見た。ストーリーが全くなかった。ただ歌うだけ。こういうミュージカルもあるのか。歌が無茶苦茶上手い人々が出ておりブロードウェイにはこんな人がざらにいるかと思うと恐ろしい。
実は初めてマンハッタンに泊まった。高級住宅地アッパー・イーストでも戸外の騒音で眠れなかった。家に帰ったら静かでほっとした。ニューヨークの住人を羨むことが多いが利害は様々と知った。
8/8
再びタングルウッド。金曜の今回はメイン・コンサートの前にボストン響団員によるプレリュード・コンサートの開催も室内の Seiji Ozawa ホールであり1日で2度おいしい日。会場近くのゲートまで移動中、開いていた門から入れてもらう。チケットを持っているかと聞かれただけでモギられず、日時指定以外のチケットを買っていたら後日もう一度入れた。ホールに着くとまだ係員しかいない。ホール近くのゲートでは開門を待つ人々の行列。抜けがけしたようで申し訳なく気まずい。会場前に整理券が配られ舞台から2列目ど真ん中。近すぎ?鼻息づかいまで聞こえてしまう。壁以外木造のホールが素敵。
日頃はどちらかというと敬遠する室内楽だが聴いて感動。ブラームスのピアノ・カルテットの最中に第一ヴァイオリン奏者の弓の毛が計4本も切れてしまいハラハラする。普通の席ならそこまで見えず気にならなかっただろう。
メイン・コンサートを今回は芝で聴く。ビーチタオルを広げ、用意して来たワインとチーズ、会場で買ったサンドウィッチとサラダで豪華ピクニック気分。と思いきや、周囲はピクニック・バスケットやクーラー・バッグ持参でキャンドルを点し、ワイン・グラスで乾杯という豪華さで見劣りしてしまう。
開演前には芝も観客で埋まる。何しろ舞台が遠いので、10分前から5分毎に鐘を鳴らして開演の合図。演奏が始まると屋根付きホール部分から相当離れているにもかかわらず意外によく聞こえて音もいい。これなら充分満足。ホールの設計がいいのか。
今夏最後のオザワ指揮は Bach の Brandenburg Concerto No. 5, Foss(知らない人。世界一周音楽旅行みたいな曲だった) Renaissance Concerto, Bizet の Symphony in C と Borne 編曲の Carmen Fantasy(ビゼー・オペラのハイライト曲をちりばめた「ビゼーちゃんちゃかちゃん」のような曲)。一風変わった楽しいプログラム。
芝席の観客は寝る人、読書に耽る人、愛を語らう見ちゃいらんないカップル等おもいおもいにくつろいでいる。こんなにリラックスして聴けるクラシック・コンサートがあるとは。段々冷えて来たので踊ったりする。クラシック・コンサートで踊るのもまれな経験で楽しい。
徐々に夜は更けて人々のキャンドルの炎がきらめき、どこかで虫が鳴いていた。後に「アメリカの美しい想い出」と呼べそうな夜だった。
8/11
さて、実はもうじき帰国するのだった。日通に引越しの見積もりに来てもらったら、渋滞で遅れるとの連絡があって驚いた。やはり日本の会社は違うと思った。アメリカでは当然のように遅れて来るし、問い合わせるまで連絡はない。日本へ帰ったら「逆カルチャー・ショック」でまた日記が書けそうだ。
8/12
ようやくUPSの小包が届く。外出寸前で危いところだった。ストは続行中なので今日の彼は臨時アルバイターか配達に駆り出された事務系社員か。新聞によれば全米の成人のうち3割以上がこのストで影響を被っているというのだが、それでも市民の多くは政府の介入を望んでいないとか。やはりアメリカ自由主義は徹底している。しかし顧客が他に流れ損失が大きいため、ストが終結しても大規模レイオフが必要と経営側は発表。ストが逆効果にならないとよいが。
8/14
sobakawa枕というものが流行っている。内容物は蕎麦ガラ。近頃ではTVCMでの通販のみならず薬局でも売る程人気らしい。薬局のレジで前に並んだ親子も関心を示しており「これが噂のソバカワ・ピロウ?ちょっと見ておいで」「お母さん固いんだって」といった会話を交わしていた。首をサポート「頭寒足熱」日本古来の知恵という売り口上だが、しかしなぜソバガラでなくソバカワ?これが気になるのはこの枕の発明者(?)Dr.ワタナベがアヤシイ雰囲気で日本人(日系人)に見えないから。私の考えではアメリカの体が沈む柔らかいベッドに硬いソバガラ枕は向かないと思う。
ところで同ジャンルの意外な大メジャー日系製品に"futon"(フータンと発音)がある。これはマットレスが取外し可能なソファーベッド、もしくはその替えマットレスを指す。"tofu"(=豆腐)の場合あまりにもポピュラーなので元が日本語であることを人々は知らない。
最近の楽しみは蛍。裏庭にもいるが散歩がてらカモ池まで見に行く。日中暑い日程増える気がする。
8/15
アメリカでも今日は終戦記念日か?新聞にも載らず行事もないのでよくわからない。しかし限られた日にしか国旗を飾ってはいけない墓地に国旗が立っていたところを見るとそうかも。
再々タングルウッド記。恐らくこれが最後。
再び芝自由席。今日は枕、タオルケット持参で寝る気満々。ヴァニラスパイス香料入りキャンドル(アメリカに匂い抜きろうそくはないのか?)を点し、持参のワインとパンに、観光地には必ずあるアウトレット・モールで調達した各種チーズと会場で買ったサラダにスープでごちそうだ。
小ぐるめ記。ここの売店の食べ物は案外おいしい。ワインやチーズも有る。ありとあらゆるレシピがあると言われるスペインのスープ"カルパッチョ"はよくあるトマトジュースみたいのではなくサラダのように具が多く、タイかベトナム料理のような味わい。思わず食後にもう一度買いに行ってしまった。サラダバーもじゃがいもサラダもいいし、試していないが陽気なお兄さんがジュージュー焼いてるハンバーガーもそそる。コーヒーもアメリカにしては高レベル。
今日のソロ・ヴァイオリニスト Cho-Liang Lin はメイン・コンサートの前のプレリュード・コンサートにも出演してサービス精神旺盛。フルートを聴きに行ったら尺八だった、っていう位個性的だったが、いや、よかった、私は好き。例えば美声の人とハスキーな声の人がいて、ハスキーな方により惹かれてしまうことがあるように。どう個性的かと言うと(顔やノリを別にして)かすれた響きを伴いビブラートを多用し小刻みに音量が変化するという、絶えずゆれ動く波のような音なのです。しかしこのクラシカルな三重奏曲では浮いてしまった気も。
後にCDでストラビンスキーとプロコフィエフのヴァイオリン・コンチェルトを聴いてこっちの方が音色が合っていると思ったが、メイン・コンサートでの演奏がチャイコンだったのはチョーゼツ技巧がやりたかったんだと思う。有名な曲だし。彼のノリもすごく観客も熱狂。私も近くまで見に行ってしまった。個人的趣味を言えばこの曲にはもう少しロシアっぽく低音を効かせて欲しいと思う。
舞台栄えする大きな顔は演歌の渥美二郎(こんな名前?)に似ていた。
Cho氏登場は2曲目のみ。3曲目のおよそ寝るような曲ではないプロコフィエフでワインの飲み過ぎか熟睡。演奏後の拍手で目覚めた。名曲名演奏を枕に周囲に気兼ねなく眠れるのはいいものです。
8/16
今日はエルヴィス・プレスリー没後20周年なので今週はアメリカを挙げてエルヴィス・ウィーク。アメリカ史上最大のスターは誰かと言えば多分エルヴィス。例えばジョン・ウェインとは比較にならないしJFKと比べても上かも。現代日本で裕次郎を聴く人がどれ程いるかは知らないが、アメリカ人は今もエルヴィスを聴く。最近発売の新譜(未発表曲を含む)の評判も上々。エルヴィス・グッズは人気だし(電話が掛かってくると歌い踊る「エルヴィス電話」は私もちょっと欲しい)、メンフィスの元エルヴィスの家で現在エルヴィス・テーマパーク"Graceland"はアメリカで2番目に訪問者が多い家(1位はホワイトハウス)なのだ。日本にいるとアメリカのエルヴィス人気はピンと来ないが。
エルヴィスの好物はこれの食べ過ぎで死んだと有名なドーナツの他、フライド・バナナやピーナツ・バターのサンドウィッチだそうだ。私は別に驚かない。アメリカにこういう悪食甘党は絶対大勢潜んでいる。
8/20
伊良部 VS. 長谷川。中部でやってて時差があるので夜中の試合をテレビで観戦。ボーク(の仕組みは私にはむつかしくて理解出来ない)を2度取られた伊良部が苛立ち、足でマウンドを掘ったら審判にすっごく叱られ、出てきたコーチだか監督だかと審判が言い争い球場は騒然。騒ぎになったらどうしようと恐かった。話題に事欠かない人だ。しかし「ツバはき」後も概ね報道は好意的だと思う。その後交代して両チームとも投手が「外人」になって変な気がした。
8/21
近頃減った家周りトラブルネタ。朝起きたら地下室が水浸しで驚いた。昨夜から続く豪雨のせい。雨漏りするのか時々床が湿っていたが、アメリカの地下室はこういうものかとあなどっていた。しかし今回はただごとでない大量浸水。雨だれ受けバケツを壁に張り付けたり雨水池をちりとりとバケツで掻い出してくたくた。被害が玉ねぎとじゃがいもで済んでよかった。
8/24
話題が尽きない伊良部ネタ。先日の試合でボーク騒ぎの際、審判が伊良部に対して「アジア人種差別的発言」をしたとして問題に。調査の結果問題の発言はなかったとのこと。人種差別発言に敏感なアメリカです。この「発言」は実際何て言葉だったのでしょうか?知りたい。
8/25
Toad's Place へ。今夜は"Villains", "The Freshmen"が大ヒット中の the verve pipe.
着くと会場の外まで人が溢れる程の混雑。All Ages(未成年入場可)のためか出演者の人気か。若者の大半は"Back to school"週間で戻ってきた Yale の学生か。7:30開場のところを前座を見込んでうかうか9時過ぎに行くと既に本番中。ダイブというか、人々の頭上をサーフィンする若者達が右往左往で、参加したら生きて帰れないと思いつつもじりじり前進。満員でも日本のライブハウスの満員電車的密度ではなく(おそらくアメリカ人にはそこまで他人とくっつく習慣はない)その気になれば相当ステージに近づける。年齢制限がある「大人ライブ」と雰囲気が違ってやけに暑い。若者は体温が高いのだ。
「皆も歌いたい?」と言って始まった件の大ヒット曲で盛り上がりは頂点に。アンコールは"Lucy in the Sky with Diamonds"一曲のみ。新人で持ち歌が少ないためか。この曲は出だしから大合唱。ビートルズはアメリカでも若者の基礎教養と見える。
結構カッコ良かったので今後も応援しちゃうと思う。
アメリカの黒人は白人音楽を、白人は黒人音楽を聞かないという話は多分本当で、ラップ、ブラコン等が守備範囲でない私が行くコンサートは観客のほとんどが白人。黒人住民率が高い New Haven でも同じだった。
蛇足。アメリカの女の子達が夏何を着ているかというと肩がヒモのタンクトップ。ブラひもを隠す/外す習慣がないのか出てるヒモは計4本。雑誌のグラビアでもそうだから多分この着方は一般的。日本でやると恥ずかしい?夏は男女とも短パン+タンクトップでこれでもかと肌を露出させるのは夏が短いヨーロッパの習慣のなごりか。近頃急に陽が短くなって、こうして今年の夏も終わるのだなあ。
8/31
Labor Day 連休初日。深夜プリンセス・ダイアナが事故で重傷→重体→死去と刻々変わるニュースで寝られなくなった。しかもパパラッツィに追いかけられた挙げ句とは。こんなことがあるものか。
ダイアナは離婚後も Princess of Wales で本人のタイトルが変わった訳ではないのに日本の報道で呼び名が「ダイアナさん」になったのは「妃」は "Princess" の和訳ではなく「皇太子の奥さん」の意だったということか。これって女性サベツっぽいが日本で気にする人はいないのか?
と常々思っていたことがどうでもよくなる大事件。アメリカではその後も報道のあり方やイギリス王室を問う報道番組が続いている。この事故の反響は大きく、「王様」がいないアメリカでダイアナは多くのアメリカ人の心の「プリンセス」だったのだと思う。